いま東京ディズニーリゾートが存在するのは奇跡的。ディズニー側は当初、門前払い。親会社の三井不動産はディズニー誘致に反対。
オリエンタルランド2代社長の高橋政知氏が「一切の金は出さず、ロイヤリティは売上の10%」というディズニーが提示した法外な条件を呑まなかったら、テーマパーク構想は頓挫していたかもしれません。
オリエンタルランドは「ディズニーありき」の企業ではなかった
東京ディズニーリゾート30周年ということで、運営する株式会社オリエンタルランドの歴史について、いろいろ調べる機会がありました。
京成電鉄と三井不動産が作った会社だとか、浦安沖(現在の舞浜地区)を埋め立てるところから事業がスタートしたとか、「へぇ〜」と思う事実がいろいろわかりました。
中でも一番驚いたのが、ディズニーの誘致が正式に決まり、調印式が行われたのが、オリエンタルランド創設から29年後だったという事実です。
つまり、東京ディズニーランドを運営するためにオリエンタルランドが作られたのではないんですね。
東洋一のテーマパークを作るためにオリエンタルランドが設立され、その候補としてディズニーに白羽の矢が立った。
リアルタイムで見てきた年配の方にとっては常識なのかもしれませんが、「昨今の大成功はディズニーメソッドのおかげ」というイメージが強かったので、ディズニーありきの企業ではないというと、なにやら信じられない気がします。
しかも、当初、ディズニー側は門前払いを食らわせたそうで、破談に終わってもおかしくなかったようです。
もし破談していれば、東京ユニバーサルスタジオになっていたかもしれないし、あるいはテーマパーク構想は頓挫して、舞浜空港になっていたかもしれない(現・成田空港の用地探しの候補になった経緯がある)わけです。
月刊『BOSS』2009年4月号の貴重な対談
Wikipediaによると、このあたりの経緯について、月刊『BOSS』2009年4月号に掲載されている森喜朗(元総理)と加賀見俊夫(オリエンタルランド会長)の対談に詳しいとのこと。
これはおもしろそうだ、ということで、さっそく手に入れました。ごく一部ですが、引用してみます。
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経営塾 2009-02-23
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森 オリエンタルランドを語るうえで欠かせないのが高橋さん(政知氏、第二代オリエンタルランド社長)ですが、どういう方だったんですか。端からみると豪傑というイメージが強いですが。
加賀見 (中略)どういう人って、一言では言いにくいんですが、お坊ちゃまなんですよ。(笑)
森 エーッ。酒瓶片手に漁師たちを口説いて回ったといわれる方が?
(中略)
加賀見 怖いもの知らずですよ。だれがなんと言おうと、ガーンと進んじゃうんですね。だからこそ、こういうことができたと思うんですよ。埋め立ても、ディズニーとの契約も。
森 ディズニーとの契約は、大変なものだったと聞いていますよ。
加賀見 ディズニーは門前払いでしたからね、最初は。
森 海外に作ったのは初めてだったんでしょう?
加賀見 当時はまだウォルト・ディズニー氏の存命中で、フロリダのディズニーワールドをつくるのに一生懸命だったんです。人も金もない。だから海外には行きたくないと言っていたんです。
森 (中略)ディズニーが日本をOKした理由はなんだっんですか。
加賀見 とにかく出す気はなかったんですよ。ディズニーはノーリスク・ノーマネー。すべてオリエンタルランドが背負った。
(※一九七四年の初交渉時にディズニー側が出した条件は「建設費をはじめ一切のカネは出さない。ロイヤリティは売上の10%」といった法外なものだった)
森 名前とノウハウだけ?
加賀見 ええ。ソフトノウハウと名前だけ。建設費から全部、オリエンタルランドが出したわけです。
森 ロイヤリティが10%というのも高いけど、しかも四五年契約も長いですね。
加賀見 その条件を高橋さん、のんじゃったんです。(笑) 最初は五〇年という話だったんですけど、高橋さんが少し俺の顔を立てろと、ロイヤリティを負けない代わりに五〇年を四五年に一割引いたんですよ(笑)。
森 それだけ?(笑)
加賀見 それだけです。でもウチにとっては長いほうがいいんです。国内独占権を持っているので、ほかではディズニーランドができないわけですよ。もし一〇年間とかだったら、とっくに契約が満了して、ディズニーはほかと契約したほうがいいとなったかもしれない。
月刊『BOSS』2009年4月号「森の清談」より一部引用
いまTDRが存在しているのは、ほとんど奇跡
Wikipediaの記述によると、親会社の三井不動産は住宅開発を優先してディズニーランド招致には反対だったそうで、妨害もあったとのこと。
契約条件といい、常識的に考えると、どうも成立するはずのない商談だったようです。
そこを、第二代オリエンタルランド社長の高橋氏が、強引にまとめてしまった。
いやーこれ、なんてドラマティックな話なんですかね。今でこそ、肩を並べるもののない唯一無二のテーマパークですけど、埋め立て前は、距離的に東京都心が近いとはいえ、ただの海だったわけです。
価値もへったくれもないばかりか、京葉線(舞浜駅開業は1988年)も首都高速湾岸線(新木場出入口 – 浦安出入口開通は交渉終盤の1978年)もない。
法外な条件を呑んでまで大成功できる確信なんか、あったんでしょうか?
前述の月刊『BOSS』2009年4月号には、“会社の歴史は50年 最初の20年は「海の底」(笑)”という見出しがついているんですが、けっして誇張ではないと感じます。
大成功している今だからこそ、「高橋氏の英断」ということになるんですが、ちょっと歯車が狂っていたら、「正気の沙汰じゃない」「奇人・変人」でしょう。
当然のように存在しているテーマパークが(しかも圧倒的なひとり勝ち)、実は奇跡的に成り立っているんですよね。
僕自身は東京ディズニーリゾートのファンなので、偶然の集積と、高橋氏の英断には、心から感謝したいと思っています。(笑)
なお、森×加賀見対談ですが、他にも、
・ゼネコンに「土地ができたら払うよ」とサギみたいな条件で埋め立てをした
・TDSを着工するまで発表から10年掛かった理由
・TDLではお酒を出さず、TDSでは提供しているのはなぜか
・アルバイト(キャスト)をうまく使えるのは希望通りの勤務と仕事をさせているから
など、かなり貴重な内容になっています。
興味のある方は読むと面白いと思いますよ。
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経営塾 2009-02-23
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