東京ディズニーランド開業の2年前からマーケティング全般に携わり、ゼロから1000万人の入園者を集めた渡邊喜一郎さんの著書『ディズニー こころをつかむ9つの秘密 ー97%のリピーター率をうみ出すマーケティング』を紹介します。
2013年は上半期(4月〜9月)の入園者数が200万人以上も増えて過去最高(約1535万人)を記録するなど、向かうところ敵なしの東京ディズニーリゾート。
マーケティングの神髄は、期待を超えるサプライズを「これでもか、これでもか」と徹底して提供することだと言います。
内容としては東京ディズニーランド開業前後の実体験に基づいた話で、現状とは違う部分もありますが(例えばブランド管理について、現在はかなり時代に適応して変化しています。僕もプレス枠で東京ディズニーリゾートを取材するのですが、本書にあるような「マスコミの記事や写真の事前チェック」はしていないと思われます)、根本的なマーケティングの考え方はとてもためになる内容です。
ディズニー こころをつかむ9つの秘密 | ||||
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ブランドに関わる目に見えるものすべてをコントロールする
冒頭に、本書の価値、誰もが知りたい回答がシンプルに記されています。
ディズニーのマーケティングとは何か。
まず、その最大の特徴を端的に挙げるなら、ブランドに関わる目に見えるものすべてをコントロールする、ということだと思います。そうすることによって、作り上げたブランドを確固たるものにし、浸透させていくのです。
そしてブランドは、人々が欲しているものを見定め、“絶対的な価値”として送り出すということ。
大事なことは、自分たちの信念を揺るがせないことです。
「言うは易し、行うは難し」と言ったところでしょうか。
実際のところ初期は、米ディズニーが持っていたマーケティングのノウハウを忠実に実践していたのだとわかる記述が散見されます。
というより、アメリカ側が日本人(オリエンタルランド側)を信用しておらず、ほとんど命令されていたようなものだったようです。
というのも、アメリカのノウハウを学ぶことが基本でしたから、いくら日本側が「絶対大丈夫だから、こんなものを売らせてくれないか」と言っても信用してもらえなかったのです。
もちろん、実績が出始めれば次第に信頼関係ができあがっていったわけですが、寄り道することなく一つの考え方を貫徹できたのは、結果的に良かったのかもしれませんね。
ゼロから米ディズニー流のマーケティングに取り組む様子が事細かに紹介されていて、本書は非常に参考になります。
期待を超えるサプライズを提供する
さらに、これはマーケティングに限らず、ですが、ディズニーが人を惹きつける重要なポイントがあります。それは人々が持っている予想を超えたものを提供する、ということです。
しかも、予想外のところで、あるいは期待のないところで。
いきなり度肝を抜いたり、最後の最後え「えっ!」と言わせたりする。
これを私は、「これでもか、これでもか」と称しています。実はあらゆるところで、ディズニーは「これでもか、これでもか」を実践しているのです。言葉をかえれば、その行いのすべてが、ディズニー的マーケティングであるとも言えます。
「これでもか、これでもか」は本当に言い得て妙だと思います。
マーケティングやブランド浸透に近道など存在しない事実は、今さら僕なんかが指摘するまでもありません。
地道に積み重ねるのが最低条件です。
その中でコツがあるとすれば、地道な積み重ねだけで満足するのではなく、常に客の一歩先を行って、期待を超えたサプライズを提供することだと言えるでしょう。
リピーター獲得のための8つのキーワード
第4章「なぜ、これほどリピーターが多いのか」に、リピーター獲得のための8つのキーワードが記されています。
「これでもか、これでもか」を理解するために最適だと思いますので、紹介します。
1. いつも何かが変わっている
実際、東京ディズニーランドは、年がら年中、何かが変わっています。
エントランスを抜けるとミッキーマウスの顔をかたどった花壇がありますが、これも年中入れ替えられている。
(中略)
また、これだけ大規模にアトラクションを展開しながら、今もなおアトラクションが増え続けています。
(中略)
ウォルト・ディズニーが有名な言葉を残しています。「ディズニーランド・ウィル・ネバー・ビー・コンプリーテッド」。つまり、「ディズニーランドは、永遠に未完成」なのです。
2. 心をくすぐる
ディズニーランドは、「すべてのお客さまがVIP」という言い方をしています。これは、言葉を変えれば、すべてのお客さまが心をくすぐられる場所だ、ということです。
3. アニバーサリーグッズ
こうしたアニバーサリーグッズは、基本的に無料配布です。どうしてコストをかけて、こんなことをするのか。言ってみれば、大盤振る舞いするのか。
それは、グッズは単なるモノではないことを知っているからです。
バッジやキーホルダー、小さなグッズひとつでも、手にしたり身につけることによってそれはひとつの「ディズニー体験」になるのです。グッズを身につけているだけで、ディズニーが身近な存在になる。親近感が高まるのです。
そしてもうひとつ、人はもらったことは忘れない、ということです。心がくすぐられるからです。
4. 優越感
もちろん、おトクになることが第1の特典ですが、「マジックキングダムクラブ」という会員証を持つことに「心くすぐられる感」があったようです。さらに、きっとこれは喜ばれるだろう、ということで「マジックキングダムクラブ」専用の特別なお土産売り場も作りましたが、これも大好評でした。
5. 都市伝説
その中でも有名なのが、こんなところにミッキーマウスの絵や形が、という「隠れミッキー」。ミッキーが壁のところにちょっと描いてあったり、塀の様子がよく見るとミッキーだったり。
本当にあるのか、といえば、本当にあります。開業時からたくさんあります。
6. 地方重視
地方で何かイベントがあるたびに、仕掛けを組んでいました。お祭り、公共機関の開設、スポンサー企業の関連施設のオープン——そういうニュースを聞きつけたら、なるべくミッキーマウスを送り込んでいました。
(中略)
そうすることで、生まれたときからディズニーキャラクターがそこにある、という感覚の人たちが日本にどんどん増えていったのです。
7. リサーチ
このヒアリングをまとめられ、レポート化します。そして「10人に何人のお客さまがどんな不満を持ったか」など、データ化されてフィードバックされました。
ここから、リピーターをさらに増やしていくためには、何をすればいいのか、ということを常に洗い出していたのです。
8. イベント
言うまでもありませんが、季節のイベントは、その季節に来なければ見ることはできません。リピーターにとってとても大きな訴求力を持つのが、イベントでした。
なお蛇足ですが、ハロウィーンを日本で流行らせたのも、クリスマスに大々的にイルミネーション装飾をするようになったのも、東京ディズニーランドが火付け役だと語っています。
今、40歳以上の方々ならよくわかると思うのですが、東京ディズニーランドができるまで、そもそもクリスマスというのは今のような派手なものでは決してなかったのです。
(中略)
ところが、東京ディズニーランドのクリスマスが街のクリスマスを変えていきました。商業地はどんどん明るく、派手になっていったのです。