知ってました? 近年のアンパンマンは、やなせたかしが原作ではあるものの、作画は本人じゃないんです。
やなせたかしが直接書いた絵本のアンパンマンは、アニメのイメージとは全く違います。
シュールで、味わいがあって、深い読後感があります。
うちの子供たちがのめり込んでいる、やなせたかし本人が書いた、昔のおすすめ絵本を5冊紹介します。
アンパンマンは嫌いだったんですが
僕は子供の頃から、アンパンマンというアニメが、あまり好きではありませんでした。
アニメの放送開始は1988年だそうなので、僕はもう小学生でした。
対象年齢に合わなかったのか、わりと本をよく読む子供だったせいなのか、あまりに単純な話の繰り返しで、面白味がない気がしていたんです。
バイキンマンが悪さをして、アンパンマンが出オチでやられて、ジャムおじさんが新しい顔を作って、バイバイキーン。
悪者と正義の味方がはっきりしすぎているのも、浅い話だなーという印象を強めていました。
(もっとも、最近の映画版アンパンマンなんかだと、バイキンマンがいいヤツになったり、キャラの感情描写を深めたりして、物語の力をうまく使うようにはなっているんですけど。でもアンパンマンでうるうる感動するのも、ちょっとイメージが違うなという気がしないでもないです。商業面では、間違いなくあれで正解ですけどね)
自分のこどもたちが生まれてからも、好んでアンパンマンのアニメを見せようとはしませんでした(が、保育園で覚えてきてしまって、今や子供たちはアンパンマンが大好きですけどね)。
「絵本を買って読んであげて」と祖母が勧めるので
そんななか、この正月に、80歳を越えている祖母の家へ、新年の挨拶に行ったところ、お年玉とは別に金一封をくれました。
なんでも、「やなせたかしさんのアンパンマンの絵本を買って、ひ孫たちに読んであげて」と。
前段のとおり、僕はアニメのアンパンマンにいいイメージを持っていなかったので、内心は「うーん、アンパンマン?」という感じだったんですが、祖母にも思うところがあったんだろうと察して、素直に引き受けました。
おそらくキーワードは、戦争体験なんだろうなと。
Wikipediaにも少し記述がありますが、やなせたかしにとって戦争体験は重大なものであり、アンパンマンの世界観にも色濃く反映されているというのは、わりと有名な話です。
ヒーローとしてのアンパンマンが誕生した背景には、やなせの従軍経験がある。戦中はプロパガンダ製作に関わっていたこともあり、とくに戦いのなかで「正義」というものがいかに信用しがたいものかを痛感した。しかし、これまでのヒーローは「正義」こそ口にするが飢えや空腹に苦しむ人間へ手をさしのべることはしなかった。戦中、戦後の深刻な食糧事情もあり、当時からやなせは「人生で一番つらいことは食べられないこと」という考えをもっていた。50代で「アンパンマン」が大ヒットする以前のやなせは売れない作家であり、空腹を抱えながら「食べ物が向こうからやって来たらいいのに」と思っていたという。こういった事情が「困っている人に食べ物を届けるヒーロー」という着想につながった。アンパンマンと「正義」というテーマについて、やなせは端的に「『正義の味方』だったら、まず、食べさせること。飢えを助ける。」と述べている。
読んでみたら面白すぎた
その足で、本屋さんに行ってみました。絵本とひとくちに言っても、きっとたくさん出版されているだろうから、何を買えばいいのか検討がつかなかったので、とりあえず目星をつけようと。
わかったのは、見慣れたアンパンマンの絵と、へったくそなアンパンマンの絵と、2種類の絵本があるという事実でした。
見れば最近の絵本は、やなせたかしは原作としてしか関わっておらず、作画は本人ではないんですね。
アニメと同様です。
せっかくだからと、やなせたかし本人が描いた大昔の絵本を中心に、5冊を選んだんですが。
これが、おもしろい。
はじめて、アンパンマンのおもしろさ、深さ、支持されている理由が、理解できた気がしました。
しかも、4歳と2歳の子供たちの食いつきが半端ない。
読んで聞かせると、いつにないくらいに、絵本の世界にのめり込んでいるのが、伝わってくるんですよ。
今や、就寝前の毎日の儀式になっています。
今回は、その5冊を紹介していきます。
1. あんぱんまん|1976年 第1刷発行(初登場は1973年)
アンパンマンの原典、とも言うべき作品です。
なにが驚くって、アンパンマンが8頭身なところ。
物語の語り口も、古典童話のようで、アニメの印象とはまったく異なります。
とんできた ふしぎな ひとは いきなり たびびとに いいました。
「さあ、ぼくの かおを たべなさい。」
たびびとは びっくりして、
「そんな おそろしいことは できません。」
と ことわりましたが、そのひとは
「ぼくは あんぱんまんだ。いつも おなかの すいた ひとを たすけるのだ。ぼくの かおは とびきり おいしい。さあ、はやく!」
と せきたてるのです。
しかも、しまいには、顔がぜんぶ無くなります。衝撃。
ジャムおじさんには、まだ名前がなく、“ぱんつくりの おじさん” として登場します。
パン職人が煙草をふかしているなんて、今じゃ叩かれそうですね。
2. それいけ!アンパンマン|1975年 第1刷発行
『あんぱんまん』に続いて刊行されたのが、『それいけ!アンパンマン』です。
8頭身から3頭身に変身しています。
首無しになるのは、あいかわらず。
ジャムおじさんに名前が付きました。
3. あんぱんまんとばいきんまん|1979年 第1刷発行
題名のとおり、バイキンマンが登場します。
頭の触覚に、ヘンな毛だか突起のようなものがありますね。
アンパンマン「おじさん あんこが くさりますよ」
ジャムさん、怒るとこわいです。
結果、どうしたかと言うと。
ここが、このお話のハイライト。
ジャムさん、なにつくってるのー!
4. アンパンマンとムシバラス|1987年 第1刷発行
グッと年代が若返って、『アンパンマンとムシバラス』では、バタコとチーズが登場しています。
こちらでは、巨大バイキンマンが登場。
目が赤いですね。
が、まさかの出オチ。
アンパンマン「へんだなあ。ぼくたち なんにも しなかったのに……」。
5. アンパンマンのクリスマス|1988年 第1刷発行
もうTVアニメの放送が始まっている時期ということもあり、よく知っているアンパンマンの陣容にかなり近づいてきます。
カレーパンマンやしょくぱんまんも登場。
しかし、味わいのありすぎる絵なんですよねえ。
赤鼻のトナカイ、なにしてんの。
この本の魅力については、表紙カバーに掲載されている、作者の言葉を一部引用します。
クリスマスの絵本はたくさんありますが、この『アンパンマンのクリスマス』は、いままでの絵本とは少し違っていることに気づかれたことと思います。
ぼくは、子どものとき、サンタクロースは、よほど小さくないと煙突からはいれないなあと思いました。そして大きな袋ひとつだけでは、とても世界中の子どもにはプレゼントできないから、サンタクロースは、たくさんいるにちがいないとも思ったのです。
おすすめは1970年代の3作品
以上5冊で、ほぼ5,000円。
祖母からもらった金額を、そのまま使い切った感じです。
もしこの中からおすすめを選ぶとしたら、1970年代の3作品『あんぱんまん』『それいけ!アンパンマン』『あんぱんまんとばいきんまん』です。
いま、毎晩のように読んで聞かせているわけですが、子供たちに「どれを読んでから寝る?」と尋ねると、はっきり初期の作品を選びます。
最近のアニメに近いほうがいいとか、そういうのは関係ないようです。
むしろ、初期の作品のほうがシンプルな分、想像力を働かせやすくて楽しいのかもしれません。
製品化されたおもちゃだと、遊び方は一通りしかありませんが、新聞紙や紙コップであれば、子供は無数の遊び方を見つけられる、というのと同じようなものでしょう。
しかも、やっぱり、やなせたかしさんが伝えたかったことは、初期作品に色濃く反映されていると思うんですよね。
アニメのアンパンマンとは、比べ物にならないくらい、シュールで、味わいがあって、深い読後感のある名作絵本だと思いました。