もしあなたが日本社会に違和感を覚える若者ならば必読|『レイヤー化する世界』佐々木俊尚著 書評

佐々木俊尚著『レイヤー化する世界 – テクノロジーとの共犯関係が始まる』の書評です。

日本社会に違和感を覚える若者たちが、日々感じているストレスの理由を論理的に理解するために、現時点で最高の書物です。

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『レイヤー化する世界』はそもそも誰が手に取るべき本か?

『レイヤー化する世界 – テクノロジーとの共犯関係が始まる』の価値は、冒頭の一行に凝縮されています。

この本は、いま新しい世界の構造がつくられようとしている、ということを解説した本です。

しかしながら、これでもまだ、ピンとこない人は多いだろうと想像します。

『キュレーションの時代』や『当事者の時代』を書いた佐々木俊尚さんの最新作だから気になるが、どうにも一歩を踏み出すべきなのか確信が持てない。

なぜなら、新しい世界の構造がつくられる事実を知ったところで、自分にどんなメリットがあるのか、想像しにくいからです。

たとえばこれが、“国民国家が終焉を迎える時代の行動指針”だとか、“富が増えない時代に私たちはどうすべきか”というタイトルであれば、世の中の最新の動向を把握したいと欲するビジネスパーソンを中心に、躊躇なく手に取る人はもっと多かったでしょう。

でも、別のタイトルが付けられました。具体的には、内容の要約です。

本書を読み終えた後なら、タイトルの言わんとする内容が理解できます。

ソーシャルメディアで影響力を持ち、読者との関係性構築に注力する佐々木俊尚さんでなければ、まったく売れなかっただろうと想像します。

メインターゲットすら、タイトルからはうかがい知れないのですから。

おそらくジャーナリストとしての立ち位置、「煽動ではなく、事実を提示するのが役割」との倫理観や価値観が理由ではないでしょうか。

働き盛り層の圧倒的大多数は、読めば息苦しくなるだけ

本書を読んで一つ確実なのは、働き盛りの40代前後はメインターゲットではない事実です。

「次の時代のサバイバル術」的なタイトルをつける必然性はなかったと言えます。

佐々木俊尚さんはいつも、ほんの少しだけ未来に見えている事実を、誰よりも早く体系的論考にまとめて世の中に発信します。

ちょっとだけ敏感な人々が薄々感づいている世の中の状況を、わかりやすく形にして提示してくれるのです。

個人的には、情報社会の構造を描き出してみせた『キュレーションの時代』から受けた納得感は尋常ではありませんでした。

いろいろな立場のいろいろな人が、今までのやり方がうまくいかなくなった原因を糾弾していましたが、どうしても違和感が拭えませんでした。

『キュレーションの時代』を読んで、すべてがつながり、違和感が解消できた経験があります。

佐々木俊尚さんが語るのは、いつも、現在の延長線上の必然です。

未来予測や、ましてや予言ではありません。

実際にいま目の前で起きている事実を統合すると、自然と見えてくる、近い将来を描き出しているだけです。

だからこそ問題になるのは『レイヤー化する世界』が紡ぎ出す一歩先の未来像が、旧来的社会システムの残滓で生きている圧倒的大多数にとっては、絶望的な内容である事実です。

誰だって「あなたのやっていることは限界で、そのうち上手くいかなくなるよ」と言われれば、気分を害するし、とうてい納得できないでしょう。

おまけに崩壊するのは、音楽業界や地方行政といった限定的なものではなく、国民国家であり民主主義です。

あまりに根底的かつ大きな概念が対象であるため、「そんなはずがあるわけはない!」と驚き憤り、「阿呆だ」「ほら吹きだ」「浅慮すぎる」と罵倒し、「議論に値しない」と無視しようとする人は少なくありません。

(現時点では数は少ないですが)Amazonの書評にも現れています。個人的に、彼らの心情は痛いほどに理解できます。

あなたが日本社会に違和感を覚える若者ならば溜飲を下げる

佐々木俊尚さんはTwitterで「10代が想定読者層」と明言しています。

私は上記ツイートの存在を、本書を読んだ後で知りました。

が、読みながら「『レイヤー化する世界』を読むべきなのは、これから社会に踏みだそうとする若者か、子育てをする親だろう」と考えていました。

私は仕事や活動の関係で、学生と接する機会がふつうの社会人よりは多いのですが、彼ら若者は等しく日本社会に、矛盾や、もどかしさを感じています。

実は若者たちは、『レイヤー化する世界』に描かれる、新しい社会に適応した生き方を、すでに自然に行いつつあります。

しかしながら彼らがひとたび社会に出ようとすると、いまだ影響力が残り続ける旧来的な社会システムとの衝突が避けられません。

例えば、就職にポジティブになれない若者の存在や、就活自殺は、彼ら若者が本能的に覚える日本社会への違和感が大きな原因の一つになっている、というのが、学生に触れていての実感です。

日本社会に違和感を覚える若者たちが、日々感じているストレスの理由を論理的に理解するために、『レイヤー化する世界』は現時点で最高の書物です。

学生や、社会に出て間もない若者は、深く頷いて納得し、溜飲を下げるに違いありません。

働き盛りのビジネスパーソンが反感を覚え、「いや、でもそれは」と言いたくなるような要素も、彼ら若者にとっては当たり前の状況でしかないはずです。

また、これから子供を育て社会に出す親にとっても、明確に読む価値のある本です(私自身、4歳と1歳の子育て中です)。

自分自身は旧来的社会システムの残滓で逃げ切れても、子供の世代はそうはいかない可能性が高いからです。

具体的にどんな子育てをするべきなのかは、親それぞれが試行錯誤するしかありません。

が、『レイヤー化する世界』は、決断において、重要な材料になってくれるでしょう。

気になるのなら、手に取らない理由は見当たらない

10代を想定読者にしている、わかりやすい本です。

誰にとっても読む価値があります。一歩先の未来を的確に描き出しています。

『レイヤー化する世界』を読まずに、現在進行形で起きている世の中の変化を理解するのは、間違いなく骨が折れるでしょう。

内容に反感を覚えるか、納得するかは、旧来的社会システムへの依存度次第です。

ビジネスパーソンの圧倒的大多数にとっては楽しい本ではないでしょう。

若者にとっては、キャリアを考えるうえでの又とない材料になります。

同時に、タイトルの影響で、つまらなそうに見えてしまっている本でもあります。

もし、「ピンとこない」程度の不確かな理由で手に取るのを躊躇っているのなら、心配はいりません。

いつもの佐々木俊尚さんの本と同じように、手に取った者の洞察を広げ、決断の糧になる種類の本です。

【Kindle版】

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