心の奥底では誰も仕事と生活のバランスを取りたいなんて思っていない

本当は仕事なんかしたくないよね、というところから話を始めませんか。

本当に大切なもの、譲れないものが認識できなければ、自分らしく生きられている実感が持てないからです。

女性リーダーを無理矢理つくる?

2013年11月、リクルートワークス研究所が、『提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題』という文書を発表しています。

元も子もない言い方をすれば、企業側が女性を恣意的にコントロールして働かせよう、という戦略です。

(企業以外への提言も含まれていますが、本質はそう表現して差し支えないはずです)

読みましたが、正直に言ってあまり好感は持てませんでした。

違和感の根源は、女性を無理矢理リーダーにする必要はない、という一点につきます。

リーダーになりたい女性が、なれるようにすればいいだけです。

「なりたい人がなれるようにする」という意味では、上記の提言は、かなり逸脱しています(もちろん、なるほどと思わせる部分もあります)。

結婚や子育てなどに対する想定不足から、合理的な人生選択ができないでいる女性に対し、企業側の論理に基づいた情報を積極的に提示して、働くことが当然であると誘導しようという印象が否めないからです。

(“女性をリーダーにするための企業への提言”なので、当然ではありますが)

得られるものと失うものを同時に提示しなければフェアではない

子育て一つをとっても、育休は一年間を基本とし、その一年間という数字も世界的に見て長く、「アメリカでもアジアの多くの国でも、子どもを産んだ女性は3ヶ月以内に職場に戻ってくるものなのです」などと断定的に書いています。

しかしながら、3ヶ月で子どもから離れてしまえば、失われるものも当然あります。

直後に、長過ぎる労働時間を是正するために、8時間労働を目指すという提言がなされていますが、通勤を含め10時間も拘束されてしまっては、子どもとすごす時間は(眠っている時間を除いて)どれほどでしょうか。

家事炊事の時間は、当然ながら子どもとべったりなんてわけにはいきません。

下手したら、子どもをゆっくり抱っこしてあげる時間を3分しか取れない、という人もいるでしょう。

それを納得の上でやるんなら、いいんです。他人がとやかく言うべきことではありません。

が、それが当たり前と思い込んで、早くから子どもを預けて働きに出た人に限って、自身の子育てに後悔します。

得られるものと、失うものを同時に提示しなければ、まったくフェアではありません。

キャリアは子ども二の次にするほど大切なのか、という視点

それから、これは個人的な思いですが。上記提言には、子ども視点が一切含まれていない事実も、付け加えておきます。

3ヶ月や1歳で親から離れたいと思う子どもはいません(発達心理学の見地から、これは明らかです)。

キャリアって、子どもの気持ちを無視してまで守るべきものなんでしょうか。

成長に悪影響が出るとか、そんなことは気にする必要はないと思います。

本当に仕事が好きだとか、一家が路頭に迷ってしまうとか、働くべき理由があるのなら働くべきでしょう。

が、何となくそうしなければいけない雰囲気だから、と確固たる理由もなく働きに出て、意図せず我が子の気持ちを無視する結果になってしまうのは、なんともやるせないですね。

おまけに、このときしか味わえない乳幼児期の成長にともなう感動や、子育ての楽しさを感じる機会も減ります。

「いま、子どもの成長を一番目の当たりにしているのは保育士」という現職保育士の意見もあるくらいです。もったいないですね……。

育休が長くなれば、キャリアに悪影響が出る、と上記提言に書かれています。その分、収入も下がるんでしょう。

では一方で、キャリアを優先したとき、いったい何が失われるんでしょうか。言及しなければ、やはりフェアではありません。

ワーク・ライフ・バランスは妥協の思考である

もっともこれは、女性リーダーを増やすべきかどうか、女性労働力の活用は必要かどうか、という価値観の問題に集約されます。

『提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題』は、女性リーダーを増やすべきである、という信念に基づいて、発信されているわけです。

だから、是非は論じません。

でも、たった一つだけ言っておきたいことがあります。

本当はみんな、心の奥底では、仕事と生活のバランスを取りたいなんて思っていない、という事実です。

そんなんじゃなく、自分に向かない事柄を可能な限り排除して、徹底的に自分らしく生きたいんです。

ワーク・ライフ・バランスって、なんだか格好いい言葉のように思われていますが、実際には妥協の思考でしかないと企業も社員も自覚するべきです。

妥協において切り捨てる部分を間違えてはいけない

人生において、ときに妥協が必要なのはもちろんです。

が、妥協というのは、最初から望むようなもんじゃありません。

最初から妥協してしまうから、不満を抱えながら働き続けるハメになります。

企業が女性に何かをすべきだとしたら、体のいいマインドコントロールではないと僕は思います。

必要なのは、それぞれの心の奥底に潜む欲求としっかり向き合う機会を作ることです。

本当に大切なもの、譲れないものが認識できてはじめて、正しく妥協ができるようになります。

切り捨てる部分を間違えてはいけないんです。

正しく妥協できれば、自分らしく生きられている実感が生まれ、心置きなく仕事に専念できるようになります。

自ずとリーダーも生まれやすくなるでしょう(同時に、上記提言にあるように経験の積ませ方等を再考すればなおさら)。

企業は社員の「本当は仕事なんかしたくない」と向き合うべき

企業としては、社員の心の奥底に潜む欲求を見るのが怖いかもしれません。

それはそうでしょう。

だってみんな、本当は仕事なんかしたくないと思っているわけですから。

でも、だからと言って働かないという人はいません。

安心して、社員の「本当は仕事なんかしたくない」という根源から掘り起こして、社員それぞれが自身の欲求に気づけるように仕向けるべきです。

その結果、この会社では働けないという結論もあるかもしれません。

が、それは社員にとってはもちろん、企業にとっても幸せな結論でしょう。

何より、社員の鼻先に人参をぶら下げて無理やり働かせる後ろめたさがなくなります。

ロイヤリティの高いメンバーのみで構成される組織は、そうではない組織よりも生産性が高いはずであるわけで、採用・教育に関わる損失もすぐに埋められるでしょう。

みなさん、本当は仕事なんかしたくないよね、というところから話を始めませんか。