今朝、いつもどおり4時半ごろに起きて一仕事してから、何気なくネットを見ていたら、懐かしい固有名詞が目に飛び込んできた。
オウチーノ、上場シーノ、アカジーノ、アウチーノ、ウレネーノ、オワリーノ : 市況かぶ全力2階建
株式会社オウチーノは、2012年10月までは株式会社ホームアドバイザーといい、私が2007年秋から2009年春まで1年半勤めていた会社だ。
2013年12月に念願の東京証券取引所マザーズ上場を果たした。
「念願の」と書いたのは、私が在籍していた、たしか2009年ごろに一度、上場に失敗しているからだ。
一度上場に失敗すると再チャレンジに数年はかかる、というのが常識らしく、このチャンスを逃すな、という発破が社内でも飛んでいた記憶がある。
私は、ちょうど2009年4月に初めての子どもが生まれることが決まっていた。
「こんなに残業してたら子育てしたいのにできねー」という理由で、退職は既定路線だった。
だからあまり関係がなかったが、「この人はできる」と一目置いていた人がどんどんいなくなり、「泥船から我先に……」感がなかったわけではない(あくまでも主観)。
そのオウチーノが上場を果たしたときいて「へぇ頑張ったねー」と思ったものの、内心「この先だいじょうぶかいな」といういらぬお節介なことを思わないでもなかった。
案の定、上場の翌年に売上が激減し、経常赤字に転落。オウチーノがアウチーノじゃねーか、というのが冒頭の記事だ。
リクルートからベンチャーへ
私は大学卒業時、作家になろうと思っていたので、就職活動はせずに、何かしら文章や文字と関われる仕事がないかと物色していた。
見つけたのが『ゼクシィ』の校正の仕事で、アルバイトから派遣へと雇用形態を変えつつ、『住宅情報ナビ』すなわち現在の『SUUMO(スーモ)』へと移った。
リクルートらしくやる気のある人間には役割が与えられる職場で、校正だけでなく、業務改善や進行管理、マネジメントも学べる環境だった。
ただ、長く勤めても(正社員以外は)給料が上がらないのがリクルートのやり方なので、経験を活かして転職を模索していた。
そこで拾ってくれたのが、不動産ポータルサイト『HomePLAZA』(当時)を運営していた、株式会社オウチーノ(当時は株式会社ホームアドバイザー)だった。
契約社員で入社して半年で課長に抜擢
先にいいところを書いておくけれど、仕事ができる人が正当に評価される職場だったのは間違いない。
何しろ私は契約社員で入社して、3ヶ月でリーダー(係長級)になり、半年後には課長の仕事をしていた。
それなりに実力があり、野心のある人には、おもしろい職場ではあると思う。
言い換えれば、それくらい人材の層が薄く、上場という高い目標を達成するためには使えるものは何でも使う、ということでもある。
が、まあベンチャーで社員50人規模に成長してくれば、どこも同じ課題を抱えるはずだ。知名度がなく将来性も不明な会社に、優秀な人間が来たがるはずもない。
面接官もやったので、これは事実と断言できる。そもそも面接に能力のある人間がやってくる可能性が極めて低い。
私がこの会社でやったこと(読まなくても本筋には関係ない)
ところで、私はこの1年半で主に、編集部の制作物の品質管理を担当した。
もう時効だと思うから書いてしまうけれど、当時は制作ミス(掲載情報の間違いなど)があまりに多く、クレームが多発していて、編集部はお荷物と見られていた。
せっかく営業が受注してきても、まともに制作できず、クレームの嵐では、足を引っ張る結果になってしまうからだ。
ざっくり、ミスの量を1/3に削減した。加えて、作業効率を約1.5倍に向上させた。
ぶっちゃけ簡単な仕事だった。取り組んだのは主に3つで、
・作業方法を可能な限りシンプルにする
・作業上のルールを統一する
・個人が蓄積したノウハウを全体で共有する
という、どれも当たり前なことばかりだ。これさえやれば、普通の制作環境になる。リクルートで「理想のやり方」を見ていたのも大きかった。
何もかもを「上場が目標」で回さざるを得なかった
2007年秋〜2009年春当時のこの会社を一言で表現すれば、「上場がゴールの会社だった」ということだ。
冒頭の市況かぶ全力2階建の記事で、上場ゴールという言葉が使われているが、私はそこまで空虚な会社だとは思わない。
ただ、何もかもが上場を目標に回っていた。いや、回さざるを得なかった。
営業目標が高いのも、残業が多いのも、見なし残業代しか払われないのも、レジャーでの有給取得を認めないのも(私の部下だけは部長と戦争して取得させたが、他は知らない)、給料が安いのも、ボーナスが金一封程度なのも、すべては「上場が成功すれば返ってくる」という理屈だった。
※捕捉すると、給料やボーナスが安いのは、上場に値する利益を少しでも出すためと推測される
※もちろん今はどうだか知らない。さすがに上場企業なんだから改善されてるはず
実際、返ってくることは返ってくるだろう。
ただ、社員にはかなりの負荷がかかる。無理はそれほど長くは続けられない。
上場に一度失敗すると再起に時間がかかってしまうというのは、これも理由なのだと思う。
上場成功翌年の転落は「やっぱり……」感が強い(主観)
あくまでも2007年秋〜2009年春当時の実感なので、現状も同じだとは断言できない。
もし、同じやり方で昨年12月の上場に漕ぎ着けたと仮定すれば……だが、上場成功翌年の転落は「やっぱり……」感が強い。
社員も気が抜けるだろうし、持ち株の売却益を土産に、優秀で経験豊富な人材が流出している可能性も考えられる。
もし私に子どもが生まれる予定がなく働き続けていたとしたら、上場が実現した段階ですぐに株を売却しただろうし、退職も考えただろう。
人的問題だけでなく、商品(オウチーノのサイトほか)も、「とりあえず体裁を整えろ」の積み重ねで来ているはずなので、そもそも競争力が低いはずだ(これは想像なので各々で判断してほしい)。
商品が明確に優れていなければ、売れるはずがない。
上場後の一年で細かな改修を重ねて競争力が付いてくるのか。
それともベンチャー時代のスピード感のままに「とりあえず」で上塗りしていくのか。
どちらにしても、年度末に何かしらの決着がつきそうなので、生あたたかく見守りたい。
※最後にもう一度だけ繰り返しますが、あくまでも2007年秋〜2009年春当時の実感からの推測です。今も同じ状況である保証はありません。
あと私は株はまったくわかりません。あしからず。