「最近、産後クライシスって言葉が話題なんだって。旦那が家事を手伝うのがことごとく気に入らなくて、嫌味を言うらしいよ。排水溝のヌルヌルの取り方が違う!とか言って。せっかく手伝ってくれてるのに」
と妻に笑い話をしたら、妻はポツリとひと言、
「“手伝う” っておかしくない?」
僕は、我が意を得たり、とばかりに、
「そう、根本的にはそこなんだよね。旦那に当事者意識がないから、いちいちムカつく」
産後クライシスは原因不明の難病なんかじゃないよ
話題の発端は、NHKの『あさイチ』。
家族にとって幸せなイベントである出産。しかし、昨年、ある民間の調査機関がおよそ300人に行った調査で、「出産直後から妻の夫への愛情が急速に下がる」という実態が明らかになりました。また、別の研究ではこの期間に生じた不仲はその後の夫婦関係に長く影響するなんてデータも。中には、長年連れ添ったにも関わらず、出産後わずか1年半で離婚に至ってしまう夫婦もいます。実は産後とは夫婦仲に大きな危機が訪れるタイミングなのです。
こうした問題はこれまで『育児ノイローゼ』『産後ブルー』といった言葉で主に母親たちの問題であるように語られてきました。しかし、番組ではこれを夫婦や社会の問題であると捉え、「産後クライシス」と名付け、その実態に迫りました。
東洋経済オンラインには、NHKあさイチ取材班の追加記事も掲載されています。
日本人を襲う「産後クライシス」の衝撃 | 産後クライシス | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
「出産は、家族の幸せの始まり」――。日本のメディアはこれまで、そうしたイメージをある種”無邪気に”発信してきた。
だが、NHKの朝の情報番組「あさイチ」取材班が取材した現実は、そんなに生易しいものではなかったという。
問題提起としては秀逸だと思うんです。
ただ、これでは、結婚や子育てに尻込みする人を増やすだけ、という印象があります。
なぜなら、産後クライシスが、原因不明の難病のように説明されているからです。なぜ産後クライシスが起きるのかについて、結論の周囲だけをなぞって、決して核心には触れていません。
産後クライシスの克服方法についても、すべてが対処療法です。必ず産後クライシスに陥る前提で書かれているように見えてしまいます。
そんなふうに脅されたら、「やっぱり結婚なんかするべきじゃないな」と思いますよね。子育てって素晴らしく楽しいのに、まったく残念な。
これは、すでに子育て中の親をメインターゲットとしているからなのか(当事者にならなければ意識しないから、原因を書いても意味が無い、とするスタンス)、それとも原因が見えていないからなのか、どちらでしょうか。
育児や家事が妻の役割であると誰が決めたのか
冒頭で書いたとおり、産後クライシスの原因は、夫の当事者意識の欠如です。
これについては、実にうまく描写している記事がありまして。
妻の不機嫌ループ ~困惑する夫たちに捧ぐ~ : MAMApicks -子育て・育児・教育ニュース&コラムサイト-
ほぼすべての「母親になった妻」が直面する変化は、意外とシンプルで、かつ劇的なものだ。
●自分のペースで物事を進められる時間がまったく無い。
●自分以外の存在をひと時たりとも頭から離せない。
●自分以外の命がおもに自分の手に委ねられる。これが一日に5時間ずつとか、短時間の役割として区切れるなら、たいしたことではない。しかし24時間絶え間なく、週末も休む事無く続く。
そして、いつ終わるのかもわからない……。
いっぽう夫は、これまで同様、朝仕事に出かけ、夜帰って来る。それまでと変わらぬ時間を過ごしている。
ここに妻として、いちいち腹が立つのだ。
(中略)
おむつ替えだの、お風呂に入れるだの、子育てのエッセンスが追加されたところで、基本、仕事と家での生活という、切り替えのある生活は続けていられる。それ自体がうらやましいのだ。
そして、その自由度に無自覚であることが、さらに腹立たしい。
私のすべての生活時間や精神は、完全に赤ちゃんの生活ペースに支配されているのに、あなたはなんて気楽なんだ!……不機嫌の、始まりだ。
以前にも書いていますが、たぶん女性は多くの場合、母親になる前から「育児は自分がやらなければ」と思い極めているわけではないんです。出産してから、夫が関わってくれないので追いつめられて仕方なく、自分がやらなきゃ……と覚悟する結果となる。
[パパ育]母親が1人で“子育ては自分の役割”という意識を持った時点で敗北決定
そんな状況で夫に「手伝おうか」と言われれば、そりゃカチンと来ますよね。
“手伝う” って何なんだよ、育児や家事が母親の役割だと誰が決めたんだボケ! おまえだって親だろうが!! となるわけです。
育児や家事は「手伝う」ものではなく「分担する」もの
この問題は、なかなか根深いです。
例えばNHKあさイチの「産後クライシスをいかに克服するか」という項を見てみると、無意識に “育児や家事は母親の役割” という前提のもとに書かれています。
産後クライシスをいかに克服するか
企画では産後クライシスの克服方法についてもとりあげました。大事なのは『夫が父親として自覚をもち、産後に家事・育児協力をする事』です。番組ではネットクラブへのアンケートを通し、『産後クライシスが起きなかった』という妻たちがどんなことをしていたのかご紹介しました。1.自分が何をして欲しいかを言葉で伝えている。
(略)2.家事協力してくれた夫をほめる
(略)3.家事をした場合に『6割でOK』と考える
(略)http://www1.nhk.or.jp/asaichi/2012/09/05/01.html
いやいや、「自分(妻)が何をして欲しいか」ではなくて、「家族としてどう分担するか」でしょう。「家事協力」って、なんで夫が妻を助ける前提なんですか。「6割でOK」とか言っている場合じゃないですよ。
子育てや家事を妻が主となってやらなければならない決まりなんか、ありません。家族の誰にとっても必要なことで、誰かがそれをやらなければ家庭がまわらないんだから、合理的に分担しましょうよ。
夫は「育児は母親のほうがうまくできるから、首を突っ込みすぎると悪い」くらいに思っている
ただ、基本的には、夫の側に悪意があるわけではありません。
むしろ、「父親は、育児では母親に勝てるはずがない」「育児は母親のほうがうまくできるから、首を突っ込みすぎると悪い」くらいに思っています。加えて、乳幼児に触れた経験が少なければ、育児の楽しさも想像できない。
単に育児への関わり方が分からなかったり、育児へ関わる積極的な理由を見つけられなかったりしているんです。
妻はこれを、夫の非協力的態度と受け取ります。結果、「自分がやらなきゃ」と覚悟するハメになるというのは、先ほど書いたとおりです。
だから夫が育児の当事者になれないのは、文化習俗的背景だったりとか、今まではそれが常識だったからとか、「何となくそんな気がする」程度の要因が強く影響しています(たぶん)。
しかも悪いことに、妻の側もなんとなく「仕方ないのかな」と諦めてしまうケースが多いんです。実際、夫に不満を持っている妻に話を聞くと、ほぼ100%と言っていいくらい、妻自身が、“子育ては自分の役割”と考えています(あくまでも僕個人の経験ですが)。
産後クライシスを回避する2つの方法
「何となくそんな気がする」は、非常に厄介です。
そもそもそれが間違っている可能性を考えないからです。
幼い頃からそれが普通だと刷り込まれていれば、どんなにわかりやすい理屈でも、「そんなのナンセンスだ」と拒否したくなります。
時代が変わった、働き方が変わった、家族構成が変わった、と冷静に考えれば夫婦で分担すべきなのは明白なのですが、耳に入れようとしないわけです。
逆に言えば、あと20〜30年もすれば、人々の常識が時代に適応して自然に変化して、あまり目立たない問題になるかもしれません。
それまで待てない人は、結婚相手を選ぶしかないでしょう。
僕自身、昔は「好きな人と結婚すればいいじゃん」派だったんですが、いまは考え方が変わりました。
だって、子育てって、人生を費やすに値する楽しいイベントなんですよ。その子育ての満足度が低ければ、僕は絶対に結婚生活を続けられないだろうと思うんです。
でなければ、出産前から「あなた(夫)も子育てをしていいんだよ」ということを、根気づよく伝えることでしょうね。そして子育ての魅力を想像できるような場所へ引っ張りだす(例えばasobi基地とか)。
本当に大半の夫は、妻に対して遠慮しているだけなんですよ。なんて明後日な方向の遠慮なんでしょうね。(^^;;