【後編】待機児童ゼロに潜むリスク(asobi基地・小笠原 舞)社会を変える具体策はこれだ!

——前編までの話を整理すると、保育園をつくること自体は、預けたいという人が預ける権利を保障する観点からは普通のこと。

ただ、待機児童を解消すると同時に、“こどもの人権” という考え方を中心に据えて、社会を作りかえていく必要があると。

原因は社会システムでもあるし、企業の仕組みや姿勢でもあるし、日本人一人ひとりの考え方でもあります。一筋縄では行かないですよね。どのようなアプローチをすれば解決できますか。

こどもを理解しないまま社会システムやサービス・商品が作られている

小笠原:わたしたちは、「こども」という存在をどれくらい知っているのでしょうか?

実は、知っているようで知らないのではないでしょうか。

親も企業も行政も、無意識に大人から見たこども像をもとに子育てをしたり、社会を作ろうとしている気がします。

私はいつも子ども達をよく観察し、「本当にこどもたちにとっていい社会、環境、サービス、商品とは?」と問いかけるようにしています。

“こどもについてもっと知ってほしい!” と思い、まず2012年の7月から始めたのがasobi基地です。

保育園や幼稚園を越えて、どんな家族でも集まれる場所で、親が我が子を知ることができます。

もちろん、こどもにとっても、自由に主体的に遊べて、自分の好きな活動を見つけられるように設計しています。

大人もこどもも、どちらにとっても良いことがある場所です。

asobi基地へ来ると、親はこどもを信じて “見守る” “サポートする” というルールがあります。

さらに、保育やこども精神科医等のこどもに関わるプロもいるので、

「○○ちゃんは××が好きですねー」

ということを、その場で親御さんと一緒に現場を見ながら話せるんです。

保育園だとお迎え時に話はできても、残念ながらその瞬間のこどもの表情などまでは共有できません。

「asobi基地は、家ほど親子の距離が近くなく、保育園ほど遠くなく、ちょうどいい距離感」

と、利用してくださる親御さんに言ってもらえて、asobi基地のような“親子が気軽に集まれるコミュニティ”は、やはり大事なんだなと自信になりました。

——よくわかります。毎日一緒にいるはずの我が子なのに、asobi基地へ行くと、「絵の具遊びがこんなに好きだったんだ」とか、意外な嗜好だったり特技だったりに気づきますからね。

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大人がこどもを知り、こどもと一緒に成長していくasobi基地

小笠原:asobi基地のスタッフにも、それぞれがこどもを持つ前から、「こどもって何なのか」を知ってほしいと思っています。

だからうちのスタッフは保育士だけではなく、大学生や会社員、デザイナー、ライター、妊婦さん、ママ&こども、アーティスト、小学校の先生など、さまざまな人がいます。

保育士にも、自分の所属する保育園だけではない様々な家族や、保育士に出会って、世界を広げていってもらい、レベルの向上につなげてほしいなと。

“大人”も“こども”も関係なく、どんな立場や職業の人も、同じ人間として繋がって、一緒に成長していくのがasobi基地です。

そんな場所が、どんな規模でもいいので、保育園ごとに、地域ごとに、街ごとにあるといいなと思っています。

今現在の子育てにおいては、ありのままのこどもを知り、気軽に相談しながら、こども達と向き合っていける。

これから生まれてくるこども達やその家族においては、妊娠前からこども達と関わることができ、専門家や先輩ママ・パパがいる。

このようなサポートがあれば、安心して子育てできる社会につながっていくと思っています。

“その人だからこそできること” を生み出すChild Future Session

小笠原:企業や行政を動かす取り組みとして『Child Future Session(チャイルドフューチャーセッション)』も立ち上げています。

いま企業と一緒に活動を始めて、こどもや家族の実の姿などを伝える必要性を感じています。

なぜなら、こどもや家族の実際の姿を知らないまま、サービスやプロダクトが生まれていると感じるからです。

例えば、とある会社の社長がフューチャーセッションに参加したとして、本当の意味でのこどもたちの視点や立場を知るとします。

会社に帰って、今までと違った視点で既存のサービスを改良したり、新しいサービスやワークショップやプロダクトを生みだしたり、というシナリオを期待しています。

私は、私が持つバックグラウンドだからこそできることがあります。

同じく、それぞれの分野や立場で積み重ねてきた人たちが、こども視点を得ることで、“その人だからこそできること”が出てくるんです。

社会ってそうやって成り立っているのだと思っています。

わたし一人では変えられませんが、それぞれのフィールドの人たちが気づいて、自分事として物事を動かしていけば、ビジネスや行政がいつかシフトチェンジすると感じます。

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便利さの追求だけでなく「こどもにとって」も汲み取るべき

小笠原:例えば、オムツについて。どっちがいい悪いではなくて、布オムツと紙オムツの違いを考えたことはありますか?

いろいろな視点があると思います。

布オムツの特徴としては、快・不快を感じやすい、換えてもらう回数が多い、親に肌を触ってもらう回数が多いなどがあります。

一方、紙オムツのいいところは、尿を吸収してくれるので夜も快適に眠れる、おもらしの不快感がない、生活に集中できるなどです。

そのほか、どっちもたくさんのいいところと、そうではないところがあります。

人間の発達に必要なコミュニケーションに着目すると、布おむつを使えば不快を感じる回数が増え、同時に「おむつ換えようね〜」「気持ちよくなったね~」という大人とのコミュニケーションも増えるわけです。

はたして、こどもの心の発達という軸で考えたら、どうでしょうか?

紙オムツを使うなと言うつもりはありません。

私もこどもが生まれたら使うと思いますし。

しかし、便利さの追及という視点だけが進み、こどもにとって大切なことは何か?

という問題提起がおろそかになると、こどもが育つ上でいちばん大事なものを奪ってしまう可能性があると知ってもらいたいなと感じます。

アタッチメント・コミュニケーション力に差が出る可能性がある、というところを見るならば、例えば紙オムツのパッケージに、

「排泄していなくても、30分ごとにチェックしよう!」

「声をかけよう!」

など、大人都合だけではなく、子どもの立場・成長についても、しっかり記載してほしいと考えています。

それが、大人とこどもの権利の真の平等だと思うんです。

親が悪いわけではないんです。

そもそも、社会に「大人都合になっていない? 本当に子どものことを考えてる?」といったテーマでの対話の場や情報提供がないのが原因なのですから。

便利だからそれでいい、だけでなく、こどもの視点でフォローをきちんとする必要があると思います。

企業への積極的アプローチも

——つい先日、2013年6月に、共闘仲間の小竹めぐみさんと『合同会社こどもみらい探求社』を立ち上げましたよね。

これも企業へのアプローチだと聞いているんですけど、どんな取り組みか簡単に教えてもらえますか?

小笠原:企業を動かすもう一つのアプローチとして、合同会社こどもみらい探求社も立ち上げました。

これは、セッションで出てきたサービスや仕組みを具体化したり、セッション以外でも企業と協力して持続可能な子育て環境づくりをしていくという目的の取り組みです。

保育士としての視点を活かし、社会をイノベーションしていきます。

こどもたちの立場で真剣に議論したい

——では、最後にひと言お願いします。

小笠原:「保育園を増やしてほしい!」「あそこの地域にはできているのに、何でうちの地域には……」と声を上げるのもいいと思います。

でも、今、現実を変えるには、どういうプロセスで取り組み、誰を動かす必要があるのか。

こどもの成長は毎日の積み重ねが大事で、止まることはありません。

要求したからといってすぐに変わるような簡単なことではない。

言ってすぐ変わるのなら、asobi基地のような活動をせずに、私だってそうしています。(笑)

「こどもにとって何がいいか?」を軸に考えたら、違う選択肢も出てくるかもしれません。

引っ越しする、働き方を変える。

そうやって考えることがまずは大事だと思うんです。

それぞれの家庭に優先順位があり、もちろん大人達の考えもありますが、住む地域、働き方、こどもを持つ選択をしたのは自分たち。

人のせいにはできませんよね。

それも、忘れてはいけないことだと思います。

こどもは環境を選べませんから。

もちろん、“こどもの権利” とだけ主張したら、親が潰れてしまいます。

逆に親の権利ばかりだったら、こどもが潰れてしまう。

「こども」と「親」という関係性だけでなく、「保育園」「子育て支援施設」「子育てサービス」等、社会の子育て支援とのバランスが大事です。

そんな社会の仕組みの中に、asobi基地やChild Future Session、こどもみらい探求社を置くことで、家庭と社会とを円滑に繋げていければと思っています。

社会的弱者とされているハンディキャップのある人たち、お年寄り、女性。

そんな議論は年々増えてきているように感じます。

ところがこどもについては、なかなか議論されていない、忘れられている気がしてなりません。

こどもは未熟で、できないことがあります。

こどもだから仕方ないではなく、どうやって未来の担い手となるこども達を社会としてサポートしていくか。

保育園もひとつあるけれど、本当に保育園だけでいいのか。

これらのことを、いろいろな立場、職業の人と真剣に議論したいですね。

——具体的にアイデアはありますか?

小笠原:この記事をベースに、保育士と、保育園を利用するお父さんお母さんと、行政、企業の方たちを集めて、待機児童問題や保育園について、こども達にとって作りたい社会について、話がしたいですね。

文句を言いあうのではなくて、代替案などを出しながら話し合い、しっかりとみんなで協力して、形にして具体的に未来を変えていけるように。

これから日本の「こども観」はどこに向かうべきなのか? 

今こそ、日本のこども観を考え、どんな国を作っていくのか、どんなこども達を育てていきたいのかを真剣に考えるべきだと思います。

ひとつの保育園の保育士と利用者が顔を突き合わせるのでは、場合によっては角が立つかもしれません。

が、同じ目的のために様々な人が集まって、普段お互いが感じていることをシェアしあえば、いい場になると思います。

——いいですね。ぜひやりましょう!