小笠原舞さん、小竹めぐみさんが共同代表を務める「こどもみらい探求社」による『こどもみらいdesignフォーラム 2014 〜人権って何だろう?〜』(2014年2月11日開催)を取材してきましたので、レポートします。
「人権」はともすると堅苦しく感じられてしまうテーマですが、集ったスピーカーが多様性にあふれ、また “フォーラム” といいながらも対話をベースにしていたため、とても豊かで興味深い場となっていました。
大人のみなさん。今日はみなさんに質問があります。
『こどもみらいdesignフォーラム』とは、
既にこども達の未来をデザインしている人同士が思いや考えを知り合い、学び合う日。
毎年、こどもに関わる社会課題の中から1つをテーマに掲げ、新しい気づきを得ることにより、こどもにとって、さらによりよい未来を一緒につくっていく場。
と、こどもみらい探求社のホームページに説明があります。
第1回のテーマに選ばれたのは、「人権」。なぜ、わざわざ堅苦しい「人権」というテーマを選んだのか。
想像するに、小笠原舞さん、小竹めぐみさんの思いを突き詰めていくと、結局はすべてが「こどもの人権」からスタートしているからではないでしょうか。
二人の共同代表の思いを端的に表しているのが、『こどもみらいdesignフォーラム』のために制作した、わずか100秒少しのこちらのPVです。
大人のみなさん。今日はみなさんに質問があります。
大人とこどもの違いはなんですか?
なぜ、個性は大事なんですか?
どうしたら、個性は見つかりますか?
どうしたら、楽しい人生を送れますか?
大人になれば、人生は楽しくなりますか?
私たちは将来、笑顔でいられますか?
きっと、人によって受け取り方は千差万別でしょう。私は、普段は隠れている、心の中にあるいちばん大切なものが浮かび上がってくるような感覚がありました。ジンときますね。
カタリストBAに集った「こどもの未来をデザインする」多士済々
会場は二子玉川のカタリストBA。噂には聞いていて、初めて足を踏み入れましたが、とても居心地のいい場所でした。
カタリストBA | Creative City Consortium
「既にこども達の未来をデザインしている人同士が思いや考えを知り合い、学び合う」という目的のとおり、保育士、小学校教諭、市会議員、NPO代表など、こどもに関わる多士済々が集いました。
また、スピーカーも、障害などのハンディについて(須藤シンジさん)、セクシュアルマイノリティの孤独感について(前田健太さん)、マイノリティを排除している現実について(東ちづるさん)、グローバル視点でのこどもの人権について(山下瑛梨奈さん)、ハーフやミックスというマイノリティについて(矢野デイビッドさん)と、非常に多様性を実感できる面々でした。
こどもと一緒に参加した方も多く、会場内にはこども自由に遊び回っていました。
asobi基地も併設されていて、こどもたちはのびのび過ごせる環境が用意されています。
こどもみらい探求社の共同代表、小笠原舞さん(左)、小竹めぐみさん(右)。協賛をいただいたという、フェイス・ペイントとして利用できる天然ゴムラテックスを原料とした絵の具『ハガレックス』を試しているシーンです。
「違いは、個性。ハンディは、可能性」(須藤シンジさん)
じっくり時間をかけ、参加者同士が互いを知り合ったのち、オープニングトークへと移ります。
スピーカーは、特定非営利活動法人「ピープルデザイン研究所」の須藤シンジさん。
次男が脳性麻痺で出生し、障害児の親となったのをきっかけとして、障害者を特別扱いし、一般の健常者を分けて扱う福祉の世界に疑問を持ち、様々な活動を展開しています。
■バリアフリーの “バリア” は、ハード(物)ではなくて、心(ハート)のバリア
■田中、佐藤、鈴木、高橋、渡辺の姓を持つ人と、障害者の数はほぼ同数(姓は2013年末の明治安田生命調べ)。五つの姓の友人がいる人は大半だが、障害者の友人がいる人は少ない
■学校でクラスが分かれているなど、障害者は分けられており、幼少期から「障害者は違う」と刷り込まれていく
■駅員さんが車いすを誘導する、なんてやっているのは日本だけ。外国では乗客が手伝うのが自然
■誰もが持っている「思いやり」を “動き” に変えていくスイッチを、ファッション、スポーツ、エンターテイメント等を通して発信していきたい(=ピープルデザイン)
印象的だったのは、「困っている人がいれば、手伝ってあげればいい。でも我々は、「下手に手伝って迷惑をかけてしまったらどうしよう」など、できない理由を探してしまう」という指摘でした。
私自身もまさに思い当たります。日本人は差別意識を持っているというよりも、健常者以外は別である、自分の役割でなく専属の人の役割、と分けて考えてしまう環境にあるのだと認識できました。
傾聴のあとは対話
対話を重視する『こどもみらいdesignフォーラム』では、以上のような話をただ傾聴するだけではなく、思ったこと、感じたことを3人程度のグループを作って共有し、参加者がさまざまに気づきを得てゆきます。
世界から学ぶ子どもの「人権」(山下瑛梨奈さん)
続いて、こどもの権利について知り、考えるパートへと移ります。
登壇者は、NGOアムネスティインターナショナルジャパンの山下瑛梨奈さんです。専門家の立場から、グローバル基準での人権についてレクチャーがありました。
■世界で最も広く支持されている「児童に関する権利条約」(こどもの権利条約)には、「生きる」「育つ」「守られる」「参加する」という4つの権利が明記されている。4つの権利を守るために、国や家族や個人の義務と責任が明記されている
■理念は「差別のない処遇」「こどもの最善の利益」「生命、生存、発達の権利」「こどもの意見の尊重」の4つ
■193カ国が批准しているが、実態は様々。世界中のこどもの7人に1人が労働せざるを得ない環境にあり、19カ国25万人がこども兵士として徴用されているなど
■日本のこどもでは、社会において当たり前とされる生活が困難な「相対貧困」の割合が約15%という問題等がある
日本人が考えている「人権」は、世界基準での「人権」と乖離している、という指摘が印象に残りました。
須藤シンジさんの話とも通じますが、日本は経済や文化では先進国となれたのに、人権や福祉の価値観では世界とは隔絶してしまっている問題点があります。
まぜこぜ社会がおもしろい(東ちづるさん)
お昼休みを挟み、様々なこどもを知り、考える時間へと移ります。
午後最初の登壇者は、TVでおなじみの女優・東ちづるさん。骨髄バンク、ドイツ平和村、アールブリュットの活動支援等のボランティア活動を20年以上続けており、現在は一般社団法人「Get in touch」の理事長でもあります。
東ちづるさんの全身から滲み出ていたのは、「おかしいものはおかしい」という意志の強さです。さまざまな活動を展開するなか、「Get in touch」を立ち上げるきっかけになったのは、東日本大震災だったそうです。
震災で壊れたのは、建物など物理的なものだけではありません。町の機能などソフト面も停止しました。すると避難所では、普段は交わる機会のない人たちが交わる結果になりました。車いすの人、発達障害の人、セクシュアルマイノリティの人、高齢者、病人、外国人などなど。
当時、報道では、「絆」など希望ばかりが取り上げられていたのは、記憶に新しいところです。が、現実には、これら少数派の人が結果的に社会的弱者になり、被災によってさらに追いつめられてしまっていました。
これもやはり、須藤シンジさんの「心のバリアフリー」に通じるところがあります。我々は意図的に排除しようとしているわけではないけれど、普段から分断されてしまっているので、(特に余裕のない状態では)マイノリティに気を配るという概念が抜け落ちてしまうわけです。
東ちづるさんは、誰も排除しない「まぜこぜ」社会を実現するために、一般社団法人「Get in touch」を立ち上げるに至ります。「Get in touch」の活動そのものがとてもクールで興味深いものですが、詳細に説明していると記事が丸々一本出来上がってしまうので、別途紹介します。
Get in touch! PROJECT | getintouch.or.jp
今回、私は初めて東ちづるさんのトークを目の当たりにしたのですが、会場をアグレッシブに引っ張ってゆく力強さがあり、話の内容も興味深い事例が多く、とてもおもしろい時間を過ごさせていただきました。また、参加者からは、「大笑いして涙して、心に染みる言葉をたくさん頂きました」などの声も聞かれました。
セクシュアルマイノリティの孤独感を涙ながらに語る(前田健太さん)
続いての登壇者は、男性同性愛者の立場から、LGBTについて語り、セクシュアルマイノリティの人々の居場所をつくろうと活動する “はる” (前田健太)さんです。
自らのセクシャリティについて、自らの意志で他人に伝える “カミングアウト” についての、はるさん自身の比喩が印象的でした。
すなわち、底の見えない中でロープが垂らしてあって、今の安全を守るために、必死にロープにしがみついている状態であると。しがみついているので、自由は奪われているわけです。
未来を切り開くためには、ロープから手を離して飛び降りなくてはいけないように思う。けれども、底が見えないので、そのまま死んでしまうかもしれないし、大けがをしてしまうかもしれない。底知れぬ不安がある。
もし、底から、「ここは大丈夫だよ」「安心してこっちへきて」という声が聞こえてくれば、どんなに勇気づけられるかわからない、と、何度も感極まりながら、はるさんは訴えます。
世界中でシェアしあうことで、世界は幸せになる(矢野デイビッドさん)
最後の登壇者は、矢野デイビッドさん。父が日本人、母がガーナ人のハーフであり、波乱万丈の半生の経験から、存在自体がマイノリティであるハーフやミックスという存在について語ります。
軽妙なトークで会場に笑顔をもたらし、自分が殺されるかどうかという深刻な場面の描写でも、常にジョークを交えて笑わせる人柄が、とても印象に残りました。私も、何回声を出して笑ったかわかりません。
6歳で日本に来て以来、ガーナを一切知らずに育ったデイビッドさんは、常に自分のアイデンティティについて悩まされたと言います。
日本でサッカーをやっていると、あのチームには外人がいるぞ、と言われる。目立つのは嫌だと、ガーナへ行ってみると「君は一瞬でガーナ人じゃないとわかるよ」と言われる。ならば自分は何者なのか。
結局、「自分はどこの国の人間か、肌の色はどうか」ということよりも、「これからどういう人間になろうか、ということを積み重ねて行こう」という結論に達します。
自らの経験を振り返って「難しい」と感じるのは、存在そのものがマイノリティであるハーフやミックスは、周囲の大人をロールモデルにできないことだ、とデイビッドさんは語ります。
また、日本とガーナの両方を知って、必ずしも資本主義の物差しだけで優劣は決められないと実感したといいます。例えばガーナでは、障害者がいても自然に助け合うので、すぐには障害がある子だとは気づかないほど。
経済的に発展しているからと言って、日本からガーナに持っていくばかりではなくて、ガーナ(ほか外国)から分けてもらう要素もあるのではないか、それこそが個人の幸せにつながるのではないか、という指摘は、新鮮な驚きに満ちていて、とても共感できました。
対話〜チェックアウト
ブレイクタイムを挟み、『こどもみらいdesignフォーラム 2014 〜人権って何だろう?〜』はクライマックスへと向かいます。
①こどもの自由な権利:大人がこどもを保護する権利。どこまでが、こどもの為となるのだろう?
②こどもの人権が、守られていない現実の根本原因は何だろう?
③そもそも人権って何だろう?
④人権における、日本ならではの難しさ・可能性って何だろう?
⑤一番近くのこども とても遠くのこども それぞれの人権を大切にするために出来ることは何だろう?
以上の5つのテーマに分かれ、4人程度のグループでの対話の時間です。
全員で大きなサークルをつくり、この日に得られた気づきや、生まれた思いを、
「人権とは●●、私の役割は●●」
以上で『こどもみらいdesignフォーラム 2014 〜人権って何だろう?〜』は終了しました。10:00〜18:00の長丁場でしたが、非常に濃密で、多様性に溢れ、充実した時間でした。
一緒に活動するあなたとつながる
『こどもみらいdesignフォーラム』は、2014年を皮切りに、テーマを変えて毎年開催予定とのことです。
なお、主催の「こどもみらい探求社」とともに活動したい方は、
いろいろな方と手をつなぎたいと思っています。手をつなぎたいなーと思った方は、ぜひ連絡をください。(小竹めぐみ)
ということでしたので、ぜひ連絡をしてみてください。
こどもみらい探求社 | 子ども達にとって本当にいい未来を探求し続ける
また、東ちづるさんの「Get in touch」も、あらゆるマイノリティ団体や関連活動とつながり、ムーブメントを起こそうとしています。誰も排除しないで一緒にいる「まぜこぜ」な社会に賛同する方は、ぜひコンタクトしてみてください。
Get in touch! PROJECT | getintouch.or.jp