プロスポーツ選手も取り入れている湿潤療法。
擦り傷や熱傷(やけど)を水で定期的に洗い流し、食品用ラップ等で覆って乾燥させないようにしておくだけで、化膿せずにあっという間に治ってしまいます。
消毒や乾燥は、傷を悪化させ、治癒を遅らせてしまうだけ。
実践してみたので、湿潤治療のメカニズムと、家庭でのやり方、必要な物、注意点などを紹介します。
湿潤療法の基礎知識
湿潤治療は、形成外科医の夏井睦医師が独自に始めた治療法です。
登場してから、まだ15年ほどしか経っていません。
当サイトの読者の方なら、夏井睦という名前を見て「あれ?」と思うかもしれませんが、そうです。
私が近頃さんざん騒いでいる、糖質制限の本を書いた方です。
傷の治療というと、消毒し、なるべく早く乾燥させるのが今までの常識でした。
こどもの頃から、転んで膝小僧を擦りむくと、せっせとマキロンで消毒して、かさぶたになるように乾かしたものですよね。
が、傷が治る過程を徹底的に研究してみると、「消毒」も「乾燥」も傷を悪化させ、治癒を遅らせるだけ。
湿潤治療のメリット
湿潤治療は、過去の消毒&ガーゼ(乾燥)治療に比べ、
・治りが早い
・痛みがなくなる(治療時も痛くない)
・薬が不要で、やり方も簡単
というメリットがあります。
治りが早い、痛みがなくなる(治療時も痛くない)というメリットに関しては、夏井医師は自分の身体で実験して、確認しています。
■新しい創傷治療 – 人体実験シリーズ
http://www.wound-treatment.jp/title_jikken.htm
また、実際に多数の患者を治療してもいます。
実際、大学病院の熱傷センターで「これは入院して手術しないと治らない」と宣告された重傷熱傷なのに、湿潤治療に切り替えて外来通院だけで二週間で完治したという例が多数あるのだ。
湿潤治療のメカニズム
湿潤療法については、夏井睦医師の『傷はぜったい消毒するな』に詳しく論じられています。
これ、糖質制限について書いた『炭水化物が人類を滅ぼす』同様、“目から鱗” の連続でとてもおもしろいので、おすすめです。
湿潤治療の方法論は、超シンプルです。
素人にでも簡単にできます。
むしろ、医者のほうが、「消毒してガーゼ(乾燥)」という古い考え方から抜け出せず(大病院ほど危険とのこと)、適切な治療ができない可能性があるそうです。
以下の引用はすべて『傷はぜったい消毒するな』より。
治療の原則は次の2つだ。
①傷を消毒しない。消毒薬を含む薬剤を治療に使わない。
②創面を乾燥させない
細かい理屈は、『傷はぜったい消毒するな』を読んでいただくとして、要点をまとめると、
1. 消毒成分は、タンパク質を破壊して細菌を殺しているが、もちろん人間の細胞膜もタンパク質でできているため、消毒すれば傷が深くなる
2. 皮膚の細胞は乾燥させると死滅する。一方、傷口のジュクジュク(滲出液)は、細胞成長因子を含んでいるため、ジュクジュクが乾かないようにしておけば、傷は早く治癒する
ということです。
「消毒をせず、ジュクジュクしたままにしておいたら、化膿しちゃうんじゃないの?」という疑問もあるかと思いますが、心配いりません。
私も実践してみましたが、まったく化膿する気配はなく、あっけなく完治しました。
なぜなら、
人間の身体の方も、傷口から入った細菌を見逃すほど甘くはない。免疫細胞が常に監視してよそ者が入り込まないように目を光らせており、入った侵入者は直ちに排除されるからだ。つまり、傷口や傷の中では滅多なことで細菌が増えることはない。
からです。
むしろ、かさぶたにしてしまうほうが、細菌の繁殖の場所を作る結果になってしまいます。
体の中に液体が溜まっている場所があれば、そこは細菌の繁殖に絶好の場となるのだ。ここで重要な条件となるのが、液体が「溜まっていて澱んでいる」ことだ。
(中略)
傷がカサブタで覆われた場合は、カサブタには吸水力がなく、しかも滲出液を外に逃がす機能もないため、カサブタの下に溜まった滲出液は絶好の感染源になる。カサブタがある傷が時に化膿するのはこのためである。
一方で湿潤治療であれば、滲出液が常にじわじわ分泌されているため、「溜まっていて澱んでいる」状況にはならず、細菌は増殖できないというわけです。
皮膚の表面どころか、体内にだって細菌はたくさんいるのは、みなさんご存知のとおりで、増殖しなければ悪影響にはならないわけですよね。
傷口に細菌が(いる)入るかどうかよりも、増殖するかどうかに着目すべき、という理屈です。
湿潤治療に必要なもの
サランラップがあれば、湿潤治療はできます。
が、今では、専用の治療用具も出回っていて、安く購入できるので、紹介します。
まず、ハイドロコロイド。
傷が小さく、滲出液が少ない場合は、これだけで完治します。
安くて、使いやすく、超便利です。
パッケージには「包帯」とありますが、傷に直接はりつけて問題ありません。
滲出液の量によって、半日から1日で交換します。
ハイドロコロイドの吸収量をこえて澱んでしまうと、前段のとおり細菌が増殖してしまうからです(また、滲出液によって周辺の皮膚が炎症を起こしてしまう可能性もあるとのこと)。
顔に貼っても目立たず、防水性もあるので、こどもにもおすすめ。
私は小指の怪我に使用し、ハイドロコロイドを貼ったまま水仕事ができました。
風呂にもそのまま入れます。
続いて、プラスモイスト。
傷が深く、滲出液の分泌が多い場合は、こちらを当ててから、絆創膏などで固定します。
滲出液の分泌量を見て、交換するのは同様です。
プラスモイストまたはラップでの治療の場合は、傷に白色ワセリン(プロペト)を塗って、しっかり密着させます。
また、鎮痛効果も高いそうです。
3つとも、マキロンと絆創膏の代わりに、薬箱に入れておくべきですね。
湿潤治療のやり方
擦り傷と熱傷(やけど)で、やや経過が異なります。
擦り傷の場合は、
- 止血
- 傷の周辺の皮膚の汚れを拭き取る(ティッシュペーパーでOK)。傷の中に砂やゴミがある場合は、水道やシャワーで洗い流す
- ハイドロコロイドを直に貼るか、白色ワセリンを塗ってラップまたはプラスモイストで覆い、絆創膏などで固定する
- 滲出液の量によって、被覆材を1日1回以上交換する
- 滲出液が出なくなったら治療終了
実践してみました。
軽い熱傷(水ぶくれが無く、単に赤くてヒリヒリするだけ)の場合は、ハイドロコロイドを直に貼るか、白色ワセリンを塗り付けたラップまたはプラスモイストで覆い、絆創膏などで固定。
赤み、ヒリヒリ感が無くなれば治療終了。
水ぶくれができている熱傷の場合は、白色ワセリンを塗り付けたラップまたはプラスモイストで覆う。
擦り傷と同様に、水ぶくれが平になるまで交換を続ける。
また、水ぶくれが2〜3センチ以上だったら、
水ぶくれを破って水疱膜(水ぶくれの表面)を除去する。通常は痛みなく除去できる。そして白色ワセリンを塗ったラップかプラスモイストで創面を覆う。ラップやプラスモイストを交換する際、新たな水疱ができていたら必ず除去する。
とのこと。
ただし、5センチをこえる大きな水ぶくれがある場合には、湿潤治療をしている病院を受診する必要があるそうです。
素人判断が危険なケース
以下のようなケースでは、抗生剤の投与や、切開が必要になる可能性があるため、医者にかかる必要があるそうです。
・刃物を深く刺した
・異物(木片、金属、魚骨など)を刺し、中に破片が残っている。
・古い釘を踏んだ。
・動物に咬まれて血が出ている。
・動物に咬まれて腫れている。
・深い切り傷、大きな切り傷。
・皮膚がなくなっている(欠損している)。
・切り傷で出血が止まらない。
・指や手足が動かない。
・指などが痺れている。
・大きな水疱ができているヤケド。
・面積が広いヤケド。
・貼るタイプのアンカ、湯たんぽ、電気カーペットなどによる低温熱傷。
・砂や泥が入り込んでいる切り傷、擦りむき傷。
・赤く腫れて痛みがある傷。
逆に言えば、これほどの深手でなければ、それぞれで治療して問題ないということですね。
ということで、マキロンなど消毒薬は、即刻ゴミ箱に捨ててしましましょう。
詳しい理屈は、もちろん夏井医師の著作で学んでください。