伊勢に縁の深い神職の友人に聞いてきました。難解な説明は一切なし! めちゃんこ分かり易く解説します。
伊勢神宮の『式年遷宮』は、西暦690年から約1300年も続く、ご存じのとおり日本文化を代表する祭祀です。
2013年10月2日(水)、5日(土)に、それぞれ内宮(ないくう)と外宮(げくう)で、“遷御”という中心的祭儀が行われ、第62回『式年遷宮』がクライマックスに向かいます。
日本人ならぜひ、『式年遷宮』を知っておきたいですよね。僕も何となくしか知らないので、この機会に調べねば! と思い立ちました。
実は僕は、日本に二つしかない、神職を養成している大学の一つ、國學院大學を卒業しているので、同級生の半分くらいが神職だったりします。
そこで今回は、茨城県つくば市の千勝神社で禰宜をつとめる千勝満彦氏に、式年遷宮について聞いてきました。
千勝くんは、大学を卒業してから、伊勢の内宮のすぐ側にある猿田彦神社(※)で5年間修行を積んでいました。
そこで伊勢とは浅からぬ縁を築いてきたようで、『式年遷宮』の今年は何度も伊勢に足を運び、先日はお白石持行事にも参加してきたようです。こころよく『式年遷宮』の解説を引き受けてくれました。
※千勝神社の祭神も猿田彦大神です。また、伊勢神宮の内宮がある場所は、元は猿田彦大神の土地だったそうで、現在でも伊勢神宮と猿田彦神社は切っても切れない重要な関係にあります
式年遷宮とは、神さまの新しい神殿へのお引っ越し
——ではさっそく、式年遷宮って何ですか?
「すごーく簡単に言うと、20年に一度の神さまのお引っ越しです」
——僕も一回だけ伊勢神宮に行った経験があるんだけど、神殿の横に、同じ大きさの更地があって、そこに新しい神殿を建てる。もう現時点では、新旧両方が建っているんだよね?
「そうそう、建っている。いま神宮へ行けば、新旧並び立っている姿が見られるので、おすすめだね」
日本や日本人全体が生まれ変わって活力を取り戻す
——式年遷宮は、どんな意義のあるお祭りですか?
「ずいぶんアバウトな訊き方をするね(笑)」
——そこをなんとか!
「遷宮をするというのは、すっごく俗っぽい言い方をすると、神さまがリフレッシュしてパワーアップする、という感じなんですよ」
——なるほどわかりやすい(笑)
「1年が、春の芽生えから始まって、夏に生い茂って、秋に実りを迎える。冬は生命の流れから言うと死ですよね。死の世界は年末に終わるわけです。
神さまも、自分も、土地も、木も草も、世の中の全てが生まれ変わって、生き生きとした状態になりますよと、それが日本人のお正月の明けましておめでとうの考え方。
数え年で1月1日に歳をとるのは、神さまと一緒に生まれ変わるんだよ、という感覚だったんだけれども、遷宮も同じように、お社(やしろ)やいろいろなものを新しくすることによって、神さまも生き生きとして、よりいっそう力が強くなるという感覚がある。
しかも伊勢の神宮というのは、例えば江戸時代に60年に1回程度おかげ参りが大流行したように、日本人全体にとって昔から特別なお社なわけです。
どれだけ離れていても、一生に一度はお参りに行きたいと考えていた人々がいたくらいで。
だから伊勢神宮の式年遷宮というのは、日本という国や、そこに生きる私たちがもう一度生き生きと活力を取り戻すような意味合いがあると思うんですよ。
遷宮をお祝いするのは、国を盛り上げることに繋がるという感覚が潜在的にあります。」
なぜ20年に一度なのか?
——例えば法隆寺とか、1000年以上耐えられる建築を作る技術はあるのに、伊勢神宮はわざわざ20年に一度作りかえる。これはなぜ?
「延喜式に“20年に一度建て替えなさいよ”と決まりが書かれているんだけど、何でなのか理由については諸説あって。
例えば、綺麗な状態に保つためには20年が限度という説。神宮の建築様式は、萱葺き、基礎を打たない掘っ立て、高床式。まず、萱(かや)が痛んでしまう。掘っ立ては、地面に穴を掘って、直接に柱を立てるので、やっぱり腐ってしまう。
つまりこの建築様式では、神さまにふさわしい状態を保てるのが20年ではないかと。」
——なるほど盲点だったかも。かなり原始的な工法なんだね。
「あるいは技術が継承できるからという説。お社を建てる宮大工はもちろん、刀とか鏡とか装束とか、ご正宮にはたくさんの宝物を納めるわけですよ。
それらを作る職人の業(わざ)を継承するのに、20年おきなら、一人の職人が2〜3回は関われると。
ただこの考え方だと、神さまありきではなく、人間ありきになってしまうけれど。
また、旧暦で20年に一度、11月1日と冬至が重なる節目に祝宴をしたと言われていて、それにならったのではという説。
例えば今でも、干支が一周すると還暦とかお祝いをするでしょう。
他にもいくつもあるけど、あとは貯蔵しておくお米の保存期限が20年という説。
伊勢神宮のご正宮の建築様式は、高床式のお米の備蓄倉庫という説が強いんですね。神さまへのお供え物として、保存米を納めてあるんです。」
式年遷宮には伝統工法の継承の意味合いも
——式年遷宮では、大量の木材を使うんだよね。特にご正宮はかなり立派な木造建築。
「約1万3000本〜1万5000本の檜が必要になるんですよ。
ご正宮の扉を一枚板で作るには、樹齢数百年の木が必要になるほど。鎌倉時代くらいまでは伊勢神宮の周辺から切り出していたこともあったんだけれど、志摩市のあたり、大台ヶ原山麓、三河、美濃と移って、18世紀ごろから現在は、木曽福島から切り出しています。」
——一万本以上は多いね。
「環境破壊だと言う人もいるんですけど。でも20年を経て使い終わった木材は、すぐに捨てるのではなくて、再利用するんですね。
20年前の前回の式年遷宮の際は、阪神大震災で倒壊した神社の復興に提供されたそうです。これは僕の憶測だけど、今回は東日本大震災で被災した神社に提供されるんじゃないかと」
——あと現実問題として、宮大工の技術継承の意味合いはあるよね。もし遷宮がなかったら、1300年前からの伝統工法が途絶えてしまうわけで。
「うちの千勝神社も、移築して今の場所に持ってきた過去があって。でも解体して持ってこようと思ったら、400年前に建てられた建築だったんですよ。
工法は時代ごとに変わるし、地域ごとにも違う。400年前の建築をばらそうと思ったら、その地域の400年前の技術を持っている人じゃないと触れない。
地元の宮大工は「こんな古いのは触れない、うちには技術が伝わってない」とみんなさじを投げてしまったので、宮大工を探すところからスタートしたんですよ。
だから技術を伝承するというのはすごく大事なことなんです。途絶えちゃうと、二度と復活させられないので。」
——あー、それはよくわかる。家電製品でもなんでもそうだけど、バラせたとしても、組み立てられないもんね。
「バラすのも、肝心な部分を壊してもいいならバラせるんだけど、ここを壊すともう二度と組み立てられない、という部分もあるからね(笑)」
以上、千勝くんありがとうございました!
式年遷宮は日本をあげてのお祝い!
個人的な感想ですが、式年遷宮は日本を挙げてのお祝い事なんだなぁと思った次第です。
確かに、日本の象徴として「神社」を挙げて、否定する人は少ないだろうし、その中でも伊勢神宮は別格。そこの神さまが、区切りを迎えて生まれ変わり、リフレッシュしてパワーアップするというんですからね。
やっぱり近いうちに、伊勢神宮には行かなければいけないなぁ。
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