たった1回キャンプに行ったら無印良品が “良品” を生み出せる理由がわかった。

先日遊びに行った無印良品津南キャンプ場は、キャンプ場であるにもかかわらず、徹底的に“無印良品らしい”場でした。

しかも、キャンプ場の本来の役割・魅力を問い直してすらいます。

経営理念や企業哲学、ブランドイメージが揺るぎないからこそ、無印良品は“良品”を生み出せるのだと実感しました。

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新潟、群馬、岐阜でキャンプ事業を展開する良品計画

無印良品を展開する株式会社良品計画は、生活雑貨だけでなく、『Café MUJI』や『Meal MUJI』の飲食事業、『無印良品の家』の住空間事業等を手がけています。

良品計画の事業の一つに、キャンプ事業が存在するのをご存じでしょうか。新潟県津南町、岐阜県高山市、群馬県嬬恋村の3箇所で、キャンプ場を運営しています。

無印良品キャンプ場

僕は子供の頃からキャンプが好きです。たぶん3年くらい前に無印良品キャンプ場に興味を持ち、キャンプ場のPR冊子『外あそび』を題材に、「宣伝しないで宣伝する無印良品の凄味」という記事を書いたほどです。

ただ、2009年に長女が、2011年に長男が生まれいるので、実際に遊びには行けていませんでした。

徹底的に“素材”を活かす無印良品キャンプ場

子供たちも充分に成長したので、2013年6月8日(土)〜10日(月)の日程で、念願の無印良品津南キャンプ場へ遊びに行ってきました。

端的な感想は「キャンプ場であるにもかかわず、どこからどう見ても無印良品」でした。すごく楽しくて再訪は確定なのですが、それにも増して、ブランド哲学が貫流している事実に感心せずにはいられませんでした。

無印良品の商品って、簡単にイメージできますよね。シンプルかつベーシック。装飾がなくお洒落で、なぜか手元に置いておきたくなる。などなど。

キャンプ場も、店舗に陳列されている生活雑貨や食品と完全に地続きで、運営されていたんです。

津南キャンプ場のシンボル的存在の山伏山。
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山伏山の麓の薬師湖。カナディアンカヌーやカヤック教室が開催されます。
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設備は必要最小限。キャンプサイトは造成せず、自然の地形のまま。
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朝の景色は、日の出とともに蒸発する夜露に輝き、
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夜は染みいるような夕焼け。山伏山から風が吹き下ろし、グッと気温が下がります。
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また、無印良品キャンプ場では、夏休みシーズンを中心に、アウトドア教室や家族体験教室がたくさん開催されます。これらイベントはすべて、その土地の自然環境、気候風土、特産など、素材を活かす発想で構成されています。

同時に、地元コミュニティをも活かし、地元の人間にアウトドア教室の講師を務めてもらったり、地元農家と連携して畑の新鮮野菜を収穫するイベントを開催したりもしています。

アウトドア教室 | 無印良品キャンプ場

スタートとなった1995年の津南キャンプ場のオープン時から変わらないコンセプトに、「自然環境の保護」と「地域とのつながり」があります。当時はまだ企業のリゾート開発に難色を示す地元の方が多くいらっしゃったのですが、私たちはそこにある美しい自然を壊さないこと、そして何をするにも地域の方々と話し合いながら丁寧に進め、キャンプ場を利用いただく方々にその場所ならではの伝統や文化を感じてもらえるようにして参りました。

無印良品キャンプ場の魅力について

家族体験教室『朝採りアスパラ収穫&アスパラ料理』に参加しました。
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地元農家の畑に生えているアスパラガスを、
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収穫して、その場で素揚げ。
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感動的に美味しかったです。収穫したてのアスパラは、スジっぽさがなく、甘みがきわ立ちます。やわらかいアスパラは、太ければ太いほど美味しいのだと知りました。

アスパラそのものに自信があるので、料理も素揚げです。「これが一番好きなんです」と、地元出身のインストラクターは笑顔を見せていました。

まさに、この地の「自然」と「コミュニティ(農家)」という素材の良さを最大限に活かしたうえで、参加者に特別な体験をしてもらおうという趣向というわけです。

サービスを追求しないのに、キャンパーにとっては断然おもしろい不思議

株式会社良品計画にとってキャンプ事業は、社会貢献事業の位置づけなのだそうです。

キャンプ場運営にあたり、周辺の約70万坪(3ヶ所合計)の森林を管理するほか、ゴールデンウィークや夏休み期間、秋の連休を中心に開催されるアウトドア教室では、地元の方々に講師を務めていただくなど、周辺地域に根ざした運営を行っており、当社の社会的な貢献を担う事業の1つとして位置づけております。

株式会社良品計画 主な事業

つまり、営利が最優先ではないというわけです。実際、料金も良心的ですし、儲かっているようには見えません。また、サービスも必要最小限で、キャンパーの居心地のいい設備をどんどん整えようという感じでもありません。

営利目的も良し悪しで、儲けばかり見ていると弊害が出るケースもあります。一方で、営利目的であるからこそ消費者向けサービスが充実するのも事実です。

無印良品キャンプ場が不思議なのは、営利が最優先でなく、キャンパー向けサービスを追求しようとしていないのに、僕自身は無印良品津南キャンプ場が素晴らしく気に入ってしまった点です。

楽しいし、居心地がいいし、何度でも訪れたい場所だと実感しているんです。無印信者だからとか、イメージに振り回されているとかではなく、明らかに他のキャンプ場に比べて優れていると言えます。

キャンプとはその土地を好きになり味わう過程である

ふだんキャンプ場は、スペックで語られるケースが多い気がしています。設備は整っているか、サイトは広くて平坦か、アクセスはしやすいか、などなど。

でも、そもそも、キャンプってどういうレジャーなんでしょうか? 何を楽しんでいるんでしょうか? スペックが高ければいいキャンプができるんでしょうか。

僕は小学生の頃から、地元の教師が始めたボーイスカウトのような団体に参加していて、静岡県の大井川へキャンプに行っていました。

キャンプ場ではなく、魂が抜けて飛んでいっちゃうんじゃないか、というくらい広く開放的な河原にテントを張って、ご飯を作って、川で泳いでいました。

僕はこの大井川キャンプが好きで好きでたまらなくて、毎年毎年通っていました。団体に参加はしなくなりましたが、今でもこの場所は大好きです。長男が生まれる前、長女を連れて遊びに行ってもいます。

ふと気づくのが、僕はこの場所が好きなんだな、という事実です。みんなでワイワイやるのも楽しみの一つではあるんですけど、本質ではないように思います。

キャンプとは、その土地、その場所にある自然を好きになる過程だと僕は思います。

誰と行くか、どうやってキャンプをするかは、楽しみ方の方法論の問題でしかないわけです。ましてやスペックなんかでは、キャンプの良し悪しは決められないはずです。

津南キャンプ場は津南町の自然を味わう手助けをしてくれる

無印良品(生活雑貨)が支持されているのは、「●●って本来、こういうものだったよね。その機能とか、装飾って、必要だったんだっけ?」という問いかけが、人々に共感されているからだと僕は考えています。

結果として出来上がったプロダクトは、シンプルで、お洒落で、無駄がない、いつもの無印の “良品” です。

新潟県津南町は、日本一の規模と言われる河岸段丘に抱かれていて、なおかつ特別豪雪地帯にも指定されています。なかなかそこいらでは味わえないような、深く豊かな自然があります。神秘としか言いようがないスポットも存在します。

余計な手を加えたり、余計なサービスをしたりせずとも、そのままでいくらでも、両手に抱えきれないくらい楽しめるんです。

無印良品津南キャンプ場は、津南町の自然を味わう手助けをしてくれます。

たとえば、どんなに津南町で採れるアスパラが美味しいとしても、収穫してその場で素揚げで味わうのは、ちょっとハードルが高いわけです。観光で訪れただけでは、ちょっと手が届かないようなところまで、橋渡しをしてくれる役割なんです。

「●●って本来、こういうものだったよね」という問いかけこそ “良品” を生み出せる理由

無印良品キャンプ場のスローガンは「過剰なサービスは省きましたが、自然は豊かです。」。

キャンプの本質を、いつもの無印良品のプロダクトと同じように、しっかり問いかけたのだと想像します。キャンプって本来どういうものだったんだっけ、キャンプ場の役割ってどういうことなんだっけ、と。

結果、社会貢献事業と位置づけているのにもかかわらず、世の中にたくさんあるキャンプ場よりも優れたキャンプ場ができるあがる(蛇足ですけど、これってすごく貴重なモデルケースですよね。良品計画は企業理念の行動基準に「地域コミュニティーと共に栄える」を掲げていますけど、過剰なサービスを追求するより、地域を活かしたほうが優れたキャンプ場ができるわけですから)。

無印良品津南キャンプ場へ遊びに行って、なぜ良品計画が “良品” を生み出せるのか、心の底から実感できました。