308月

学生を立派な社会人に育てあげている大学は存在するよ。


 
新卒の教育コストを負担に感じる企業が増えてきているようなのは、やはり大きな問題です。新卒一括採用のゆがみや、雇用不安、雇用の流動化は現実に起きています。「このままではまずい」と実感している人も多いのでしょう、教育コストを誰が担うのかの問題については、世間の感心も高いようです。

意見:なぜ、企業が未熟な新卒を育てる必要あるの?—誰が教育を担うのか – BLOGOS(ブロゴス)

「なぜ、企業が未熟な新卒を育てる必要があるのか?」という問題提起は、秀逸だと思います。

今まで当然のように企業が負担していたコストですが、言われてみれば、企業が負担しなければならない決まりがあるわけではありません。会社固有の仕事上のルールは当然ながら教えるにしても、他人とのコミュニケーションや、PDCAサイクルの進め方、物事を抽象化して捉える訓練など、必ずしも企業が教育する必要はありません。

社会の仕組みや、諸般の事情を考え合わせて、「やっぱり企業が負担するべき」という結論も当然あるとは思いますが、常識にとらわれず、どうするのがもっとも効率が良く、最善なのかを考えるきっかけとなるので、これはすごくいい記事だと思いました。

 

“家庭や大学に教育はできない” は本当か?

ただ、上記記事のコメント欄を見ていて、一つ歯がゆいことがありました。“家庭や大学には教育はできない” という見解が、疑う余地のない真理であるかのように語られていた点です。

いま社会人である私たちのほとんどは、家庭や大学で、社会で役立てられるような経験ができなかったはずなので、こうした意見が幅をきかせるのは当然と言えば当然です。

しかしながら僕個人は、家庭や大学にも、立派な社会人を育てるための教育ができると考えています。なぜなら現実に、学生を立派な社会人に育てあげている大学が存在するからです。

何より、「あっちもダメ、こっちもダメ、はい!だから会社が教育すべき」と押しつけ合っても、実社会は動きません。成果を出しているシステムを応援して、完成度を高め、周囲が真似するように持っていくほうが有意義です。

 

静岡県立大学経営情報学部・国保ゼミ

僕が知っている “現実に学生を立派な社会人に育てあげている大学” とは、静岡県立大学です。静岡県以外の方にはあまり馴染みがないと思いますが、公立大学であり、静岡県内ではなかなか優秀な学生が集っているようです。

その中で、経営情報学部の国保祥子先生と懇意にさせてもらっています。きっかけは、僕が運営しているニュースサイト『FutureCenterNEWS JAPAN』の取材で、国保ゼミで運営しているフューチャーセンターにお邪魔したことでした。

【フューチャーセンターの様子】
抜群の居心地。静岡県立大学国保ゼミフューチャーセンター | FutureCenterNEWS JAPAN

【国保ゼミから派生して、静岡市内でフューチャーセンターが広がりつつある】
“地域に一つフューチャーセンター” へ一歩を踏み出しつつある静岡県 | FutureCenterNEWS JAPAN

実はこのフューチャーセンターが、学生へのキャリア教育にあたってすごく重要な役割を果たしているのですが、興味のない人にはチンプンカンプンだと思いますので、ひとまず置いておきます。

 

女子学生が企業とコラボして静岡土産を開発。しかも高品質

国保ゼミでは、ゼミ生が必ず何かしらのマイ・プロジェクトに取り組みます。講義で経営学を学び、ゼミで実践するというわけです。ゼミ生が取り組むプロジェクトはさまざまで、大学の売店の改善であったり、地元商店と連携した地域活性策であったり、企業とコラボレーションした商品開発であったりします。

詳細はアニュアルレポートをお読みください。

中でも僕が注目していて、見事に結実したのが、石田裕紀子さん(2013年春卒業)による『茶の和』プロジェクトです。静岡育ちの学生が、静岡らしいお土産を生み出して地元を元気にしようと、地元企業とコラボレーションして商品開発をしました。

【新発売時の様子をレポート】
女子学生が企業とのコラボで地元活性に挑む。新東名の新土産に『茶の和』をどうぞ!

【インターネット販売を開始】
絶品! 女子学生が作った新しい静岡みやげ『茶の和』が通信販売を開始

【触発されて書いたHandmade Future !の記事】
「近頃の新卒は使えない」はみっともないと思わない?

学生が商品開発を成し遂げた、というだけでもすごいのですが、何より驚いたのが、生み出した商品の完成度の高さです。たくさんの試行錯誤や挫折があったと聞いていますが、実際に『茶の和』を手にとって味わってみれば、それだけのことはあると感心してしまいます。正直なところ僕には、ここまで根気強く丁寧に商品開発をする自信はないですね。

 

社会との接点をいかに作るか?

私たち、すでに社会に出ている大人からすると、大学で社会経験を積むなんてできないという感覚が強いはずです。

なぜなら通常の学生生活とは、講義に出て、友達と遊んで、卒業論文を書くだけ。意識して行動するのでなければ、社会や(大学教員以外の)大人と接する機会など皆無に等しいわけです。せいぜいがアルバイトですが、大して責任も背負わず時給のために働いたところで、実社会で役立つような経験にはなりません。

実ところ、大学の大半が抱える致命的な問題点と言えると思います。大学卒業後はほぼ例外なく社会に出るわけで、大学は教育現場と社会の境目であるわけですから、大学で社会に出るための準備を済ませておかなくては、やはり問題(つかえない新卒、新卒採用のミスマッチ、などなど)が起きます。

このような視点からすると、大学の課題とは、いかに社会や社会人との接点を生み出すかに集約されると言っても過言ではないはずです。

 

大学と地域社会の接点を生み出しているフューチャーセンター

国保研究室。フューチャーセンターの場作りのために、まるでカフェのように改装している

国保研究室。フューチャーセンターの場作りのために、まるでカフェのように改装している

国保ゼミでは、毎週月曜日の夜にフューチャーセンターを定期開催しています。ゼミ生や他学部・他大学の学生はもちろん、地域の社会人を招いて、年齢や立場を超えたフラットな意見交換・対話がなされています。

フューチャーセンターで話し合われるのは、学生のプロジェクトについてであったり、地元企業の新規事業についてであったり、さまざまです。

学生は、知識や経験が不足しがちである一方、社会常識に囚われないゼロベース思考が得意という特徴があります。社会人は逆で、知識や経験は豊富ですが、環境に縛られている影響で自由な発想をするのが苦手な傾向があります。フューチャーセンターでは、互いの強味を活かし合い、弱味を補い合っているというわけです。

(今回は学生のキャリア教育がテーマなので詳細は省きますが、社会人側も学生から多大な恩恵を受けています。参加者の誰にとってもメリットがあるからこそ、場がうまく回っています。)

 

聖域にいながら何度でもチャレンジできる環境が大切

フューチャーセンター開催前の様子。研究室とは思えない居心地の良さがある。学生の滞在率も上がったというが、これなら当然だろう。うらやましいかぎり。アイスブレイクの軽食は地元商店で調達している

フューチャーセンター開催前の様子。研究室とは思えない居心地の良さがある。学生の滞在率も上がったというが、これなら当然だろう。うらやましいかぎり。アイスブレイクの軽食は地元商店で調達している

例えば前述の『茶の和』を開発した石田裕紀子さんが、何度も挫折しながらも、課題と向き合って根気強くチャレンジできたのは、知識・経験の豊富な社会人の存在があったからこそです。

国保ゼミでは、大学という(社会の荒波から守られている)聖域にいながらにして、人付き合いのマナーであったり、仕事の進め方であったり、問題解決プロセスを学べます。仮に失敗してもサポートしてくれる大人がいて、当人に意志さえあれば何度でもチャレンジできます。

こうして立派にプロジェクトを成し遂げた学生ならば、社会に出ても戸惑うことなく、バリバリやっていけそうだとは思いませんか? 

 

現場レベルでは試行錯誤が続いている

雰囲気はすごくいい。顔見知りが誰もいない状態で初参加したとき、学生が気さくに話しかけてきてくれて驚いた。国保ゼミ生は社会人と接する経験を重ねているので、社会人を恐れない

雰囲気はすごくいい。顔見知りが誰もいない状態で初参加したとき、学生が気さくに話しかけてきてくれて驚いた。国保ゼミ生は社会人と接する経験を重ねているので、社会人を恐れない

もちろん完成されたシステムというわけではないでしょう。外からは見えにくい部分で、学生の個性によってはうまく行かなかったケースもあるに違いありません。これからも国保先生の試行錯誤は続くはずです。

とは言え、こうしたモデルケースの存在は、大学によるキャリア教育の可能性に一石を投じます。実際に成果を出している研究室があると知れば、“家庭や大学に教育はできない” とは軽く口にできないはずです。

大学教育全体でみれば、まだまだではあるのでしょうが、現場レベルではきちんと課題を認識して、真摯に取り組んでいる方々がいます。きっと国保ゼミだけではないでしょう。日本全国あちこちで、小さな挑戦が芽吹いていると思われます。

また蛇足ですが、家庭でのキャリア教育に関しても、気づいている人は気づいて、すでに取り組んでいます。

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こちらもある程度ノウハウが蓄積されてきて、また親が「学校や会社だけには任せておけない」と考えるようになれば、自然と広がっていくはずです。

繰り返しになりますが、新卒の教育は負担だからと押しつけ合ったところで、社会は動きません。結局は全てのしわ寄せが学生へ行き、「学生がそれぞれ努力するしかない」という厳しい結論になってしまうはずです。

個人的には、学生や新卒の教育を無駄なコストだと忌避する姿勢は好きではありません。家庭・教育機関・企業の三者がそれぞれ、自分のところでできる教育は精一杯引き受けるべきだと思います。

僕自身、学生とかかわるのが好きなので、できることをやっています。微力ではありますが。あらゆる人が通る道なのだから、一人一人ができる範囲で少しずつサポートする風潮が生まれてほしいですね。

 
国保ゼミのフューチャーセンターについて: 国保研究室

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