62月

冒頭を読むと続きが気になる小説&ノンフィクション他15冊


小説、エッセイ、ノンフィクションとバラエティ豊かに。たまにはこんな記事でお楽しみください!

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1. われ笑う、ゆえにわれあり

以前から書きとめていたものがかなりの量になり、出版をしきりに勧めてくれる人がまわりにいなかったので、自分から出版を交渉した結果がこの本である。事前に何人かの人に読んでもらったところ、「面白くない」と言う者と、「つまらない」という者とに意見が分かれた。なお、公平を期すために、「非常にくだらない」という意見もあったことをつけくわえておこう。意見をいってもらったおかげですっかりケチがついたものの、少なくとも本書を正しく理解する人がいることを知って、私は意を強くしたのである。

 

2. 臨機応答・変問自在 ―森助教授VS理系大学生

「先生は、どうしてこんなつまらない本を出版するのですか?」
「同感です。その疑問にはいずれ答えたい。ところで、君はどうしてどんなつまらない質問をしなければならないのですか? どうしてそんなつまらない人生を活きているのかな?」
「つまらないかどうか、生きてみないとわかりませんよ」
「まったく同感だ」

「先生、こんな質問をさせて、どんな意味があるの?」
「それは、君がどんな意味のある人間かによる」

 

国立N大学工学部の建築学科の教官として、建築材料や力学の授業を担当してきた。その中で学生全員に毎回質問をさせている。学生たちはノートの切れ端を破って、短い質問を提出する。それらを集め、すべてワープロで打ち直し、個々に短い回答を付ける。それを次週の授業のときにプリントで配って説明している。

(中略)

それらの九十五%以上は、授業内容に関する専門的な質疑応答であり、しかもかなり内容が重複している。毎年、毎回、同じ質問が出るからだ。教科書を見ればわかる、講義を聴いていればわかるはず、というゴミのような質問が半分である。しかし、それらの良い質問も悪い質問も、ここでは取り上げない。

残りの五%が専門外の質問である。建築に関連することが多いが、まったく関係のない質問も出る。それらのうち、一般の人が読んでもそこそこ面白い、あるいは、面白いかもしれないものをピックアップした。それが本書の内容である。

 

3. オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える

食器の触れ合う音に、時折、談笑が重なる。ジェフユナイテッド市原がキャンプを張る韓国・海南のスポーツシューレ。食事会場となっているバンケットルームの扉が突然開いた。夕食を摂っていた選手たちが視線を向ける。クラブ職員が立っていた。

「新監督が到着されたので紹介する」

選手たちが持った第一印象は、大きな人だな、だった。191cmの長身が、そこにいた。登場の仕方からしてミステリアスだった。

(中略)

MFの佐藤勇人は、この監督は所信表明に何を話すのだろう、と見ていた。共に戦おう、あるいは君たちは覚悟して欲しい、か。いずれにしても自分を理解させるために、あるいは舐められない威嚇のために、新しい指揮官の第一声は少し長い演説になるのが常である。

ところが、オシムは今まで接してきたどの監督とも異なる行動を取った。通訳を介してスピーチを求められると、身構える選手を前にひょいと右手を軽く振ったのだ。

「ああ、そんなものはいい。いらない」

スタッフを尻目に、選手のテーブルに近づくと、裏返した拳でひとりひとりの食卓をコンコンと、2回ずつノックをして回り始めた。1周すると自席について食事を始めた。

何ダロウ、コノ人?

絡みにくい、掴み所のない監督が来たなというのが由羽人の第一印象だった。

 

4. となり町戦争

となり町との戦争が始まる。

僕がそれを知ったのは、毎月一日と十五日に発行され、一日遅れでアパートの郵便受けに入れられている〔広報まいさか〕でだった。町民税の納期や下水道フェアのお知らせに挟まれるように、それは小さく載っていた。

【となり町との戦争のお知らせ】
開戦日 九月一日
終戦日 三月三十一日(予定)
開催地 町内各所
内 容 拠点防衛 夜間攻撃 敵地偵察 白兵戦
お問合せ 総務課となり町戦争係

 

5. 図書館戦争

前略

お父さん、お母さん、お元気ですか。
私は元気です。
東京は空気が悪いと聞いていましたが、武蔵野あたりだと少しはマシみたい。
寮生活にも慣れました。
念願の図書館に採用されて、私は今——

毎日軍事訓練に励んでいます。

「腕下げんな、笠原ッ!」

名指しで飛んだ罵声に、笠原郁は小銃を保持した腕を懸命に引き上げた。

陸自払い下げの六十四式小銃は重量四・四kg、二十二歳女子が抱えて走るにはなかなか厳しいウェイトだ。

 

6. 阿修羅ガール

減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。

返せ。

とか言ってももちろん佐野は返してくれないし、自尊心はそもそも返してもらうもんじゃなくて取り戻すもんだし、そもそも、別に好きじゃない相手とやるのはやっぱりどんな形であってもどんなふうであっても間違いなんだろう。佐野なんて私にとっては何でもない奴だったのに。好きだと言われた訳でもなく友達でもなく学校が同じだけでクラスもクラブも遊ぶグループも違う佐野明彦なんかと私はどうしてやっちゃったんだろう?

お酒のせい?

お酒のせいにするのは簡単だけど、でもそれはやっぱり違う。道義的に、とか倫理的に、とかの間違いじゃなくて、単純に本当じゃない。

本当は、ちょっとやってみたかったからやったのだ。

 

7. ダブル・ファンタジー

男の臀とは、どうしてこうも冷たいのだろう。

体格や年齢にかかわらず、それだけは同じだ。背中に腕をまわして肩胛骨を撫で、背骨をひとつずつ数えおろしていき、その手を斜め下へと滑らせると、必ずといっていいほど、よく冷えた臀に出くわす。

触れたてのひらと一緒に胸の奥まですっと冷えかけたのをごまかすかのように、奈津は、両手で男の臀部をきつくつかんだ。

低く呻いて、男が口づけてくる。ざらりと侵入してきた舌から露骨に口臭消しのミントが香り、やる気の温度がまた二度下がる。

「どうかした?」と男がささやく。「もしかして、まだちょっと緊張してる?」

——あんたのリードが不味いから気が乗らないだけでしょうが。

辛辣に言い放つ自分、は想像するだけにとどめて、奈津はわずかに微笑み、首を横にふった。

物慣れないふうでおずおず頷くという選択肢もあるにはあるが、このタイプを相手にそんなことをすれば、優しく腕枕でもされているうちに夜が明けてしまいかねな……

 

8. 風に舞い上がるビニールシート

まもなく発車します。最終案内のアナウンスがホームに鳴りわたるなり、弥生は「ごめんなさい、着いたら、また……」と口早に言い置き、携帯電話をコートのポケットへ忍ばせた。後ろ髪を引かれる思いで新幹線の乗車口に足をかけたものの、背後ですっとドアの閉まる気配がすると、どうせ後戻りはできないのだからと、逆に心が静まった。

 

9. 被取締役新入社員

俺の月給は二十万円だ。そして年俸は三千万円。計算が合わないのはなぜかって?

俺は某一流企業の一流ダメ社員だ。それも筋金入りの。だから二十八歳にもなって月給二十万円。

そしてだが俺は役員でもある。しかも超特別待遇の。その役員報酬が年間三千万円。

筋金入りのダメ社員で超特別待遇の役員。普通はありえない話でしょ。

月給二十万円の俺について話そう。

俺はとにかく、とにかく冴えない男だ。ガキの頃から不細工でウスラバカ。そしてそのまま大人になった。身長百六十センチ、体重八十キロのチビデブだ。見てくれが不細工なだけじゃない。自分で言うのも何だが、中身も悲惨。これまでの人生振り返っても、ひどいもんだった。

小学校の入学式でいきなりウンコ漏らして、惨憺たる六年間の始まり。“ゲリブタ”ってそのまんまのあだ名を付けられていじめられっこ街道をまっしぐら。成績はいつも「2」がずらりと並んで「1」ってのも混ざってるから程よく「イチ、ニイ、イチ、ニイ」で“アヒルの行進”なんて言われてた。よく自殺しなかったな、って思うのが唯一自賛できるところだな。

 

10. アヒルと鴨のコインロッカー

腹を空かせて果物屋を襲う芸術家なら、まだ恰好がつくだろうが、僕はモデルガンを握って、書店を見張っていた。夜のせいか、頭が混乱しているせいか、罪の意識はない。強いて言えば、親への後ろめたさはあった。小さな靴屋を経営している両親は、安売りの量販店が近くに進出してきたがために、あまり良好とは言えない経営状況であるにもかかわらず、僕の大学進学を許してくれた。そんなことをさせるために大学へやったのではない、と彼らが非難してくれば、そりゃそうですよね、と謝るほかなかった。

 

11. 十角館の殺人

夜の海。静寂の時。

単調な波の音だけが、果てしない暗闇の奥から湧き出してきては消える……。

防波堤の冷たいコンクリートに腰掛け、白い呼吸に身を包みながら、彼は一人、あまりに巨大なその闇と対峙していた。

もう何ヶ月もの間、苦しんできた。もう何週間もの間、思い悩んできた。もう何日もの間、同じことばかりを考え続けてきた。そして今や、彼の意志は、ある明確な形をもって一つの方向へと収束しつつあった。

計画は既に出来上がっている。そのための準備も、ほぼ整えてある。あとはただ、彼らが罠に飛び込むのを待つだけだ。

 

12. ベロニカは死ぬことにした

一九九七年十一月、自殺する時が“ようやく!”来た、とベロニカは確信した。修道院に間借りしていた自室を入念に掃除してから暖房を切ると、歯を磨いて、横になった。

彼女はベッドサイド・テーブルから睡眠薬を四包み取り出した。潰そうとも、水に混ぜようともせず、意図と行動には必ず隔たりがあるものだから、もし途中で引き返したいと思ったらそうできるように、一粒ずつ飲み込むことにした。でも一粒毎に、より決心は固まっていき、五分後には、包みは全て空になっていた。

 

13. 西の魔女が死んだ

西の魔女が死んだ。四時間目の理科の授業が始まろうとしているときだった。まいは事務のおねえさんに呼ばれ、すぐお母さんが迎えに来るから、帰る準備をして校門のところで待っているようにと言われた。何かが起こったのだ。

決まり切った退屈な日常が突然ドラマティックに変わるときの、不安と期待がないまぜになったような、要するにシリアスにワクワクという気分で、まいは言われたとおり校門のところでママを待った。

ほどなくダークグリーンのミニを運転してママがやってきた。英国人と日本人との混血であるママは、黒に近く黒よりもソフトな印象を与える髪と瞳をしている。まいはママの目が好きだ。でも今日は、その瞳はひどく疲れて生気がなく、顔も青ざめている。

ママは車を止めると、しぐさで乗ってと言った。まいは緊張して急いで乗り込み、ドアをしめた。車はすぐに発進した。

「なにがあったの?」

とまいは恐る恐る訊いた。

ママは深くためいきをついた。

「魔女が——倒れた。もうだめみたい」

 

14. スティーブ・ジョブズ

2004年の初夏、私のところにスティーブ・ジョブズから電話があった。ジョブズは、折々、友だちのような感じで連絡をしてくるのだ——私が働いていたタイム誌やCNNに、新しく発表する製品を取り上げてほしい場合などは熱心に。このころ私は、タイムもCNNも辞めたあとで、ジョブズからの連絡もめっきり減っていた。転職先のアスペン研究所について少々話をしたあと、研究所のあるコロラド州まで来てサマーキャンパスで話をしてくれないかと頼んでみた。彼の答えは、喜んで行くけど話はしない、ただ、散歩をしながら私とゆっくり話がしたい、だった。私は、変な話だなと思った。大事な話はえんえん歩きながらするのがジョブズ流だとまだ知らなかったからだ。

散歩をしながら彼に頼まれたのは、

「僕の伝記を書いてくれ」

だった。

 

15. フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)

2003年9月、コンピュータ科学専攻で2年生になったばかりのマーク・ザッカーバーグはハーバード大学のカークランド寮の続き部屋の共用室に、幅8フィートもあるホワイトボードを引きずり込んだ。大型ホワイトボードはギーク〔コンピュータおたく〕たちの大のお気に入りのブレインストーミング・ツールである。ホワイトボードはザッカーバーグがその上に書きなぐる図と同様、大きくて不細工だった。学生4人を収容する続き部屋には、このホワイトボードを設置できる壁が一面しかなかった。それは共用室から各自の寝室に続く廊下だった。ザッカーバーグは早速ホワイトボードに何かを書き始めた。

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