PlayStation 4にわくわくしないのは何故か


先日発表されたPlayStation 4を題材に、昨今のライフスタイルの変化を踏まえつつ、マーケティングについてあれこれ語ってみたいと思います。僕はPS4は成功しないだろうと思っています。そう考えるのはなぜか、というお話です。

 

ライフスタイルの変化は優れたプロダクトも消し去る

F1にも参戦していた自動車メーカー、HONDAの技術力は素晴らしいものがあります。市販車では、『TYPE – R』を冠したスポーツカーにその技術力が最大限に活かされていました。

スポーツカーなので好きな人は改造しようとするのですが、「素人が改造しようとすると逆に遅くなる」と言われたほどバランス良くチューニングされていて、まるで自動車メーカー純正の改造車でした。僕もインテグラTYPE – R (DC5)に乗っていた経験があります。車というものの認識を180度変えてしまうくらい鮮烈な体験でした。

でも、『TYPE – R』の良さを体験するのは、一部の人だけです。一般人にとっては、どんなにカーブをスムーズに曲がれようが、どんなに軽快にエンジンが吹け上がろうが、そんな性能はオーバースペックであるだけで、必要ないからです。スポーツカーよりもコンパクトカーやミニバンのほうがライフスタイルに合っています。

実際、2013年2月時点、『TYPE – R』は販売されていないようです。採算がとれないからでしょう。もしかしたらこの先、新たな『TYPE – R』が販売されるかもしれませんが、それはブランディング戦略でしかないはずです。つまり、「技術力のHONDA」を印象づける広告のようなものです。もはや採算がとれるほど売れることはありません。ライフスタイルが変わり、車を趣味にする人が減ってしまったからです。

 

「〜しながら」に急激にシフトしつつあるライフスタイル

先日ソニー・コンピュータエンターテイメントより、PlayStation 4が発表されました。最新鋭のゲームマシン『PS4』ではあるのですが、わくわくしない人は意外に多いはずです。あるいはわくわくしても、早々に「まあ買わないな」との結論に達した方も多いでしょう。

僕自身、ファミリーコンピュータからPlayStation 3まで、TVゲームは一通り遊んできた世代です。小学校〜大学まで、みながファミコン、スーパーファミコン、PlayStationで遊んでいました。TVゲームをやらないほうが少数派、と感じたほどでしたが、同世代のみなさんはどうだったでしょうか。

でも、その僕がPS4の発表にちっともわくわくできないでいます。妻はさらりと一言、「もうTVではゲームをしないかな」と言いました。

タブレット端末がデスクトップPCを抜いた!…BCN調べ : BCNニュース : ニュース : ネット&デジタル : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
会見の冒頭、道越一郎アナリストは「先月発売したWindows 8の出足が鈍い。OSが新しくなったタイミングでPCを買い替える時代ではなくなった」と、パソコン市場の厳しい状況に触れた。

上の記事にデータがありますが、今や売れているパソコンの6〜7割がノート型で、残りをデスクトップとタブレットが分け合っているという状況です。記事ではタブレットの売れ行きが伸び、デスクトップ市場はますます縮小傾向であると伝えています。

 

国内で来年にはスマートフォン普及率が過半か(団藤保晴) – BLOGOS(ブロゴス)
13歳以上のインターネットユーザーの4割が既にスマートフォンを使っており、半年で1割も嵩上げされるペースが続けば来年には全人口を母数にした普及率でも過半に達する見込みです。

またスマートフォンの急激な普及は、ご存じのとおりです。スマートフォン(賢い電話)は、もはや携帯電話というより、通話機能もあるミニパソコンです。ゲームもできれば、情報収集もできます。

これらが表しているのは、ここ数年でライフスタイルが様変わりした事実です。私たちは、趣味や情報収集のために、まとまった時間を確保しようとしなくなっています。それらの大部分は移動しながらであったり、ベッドに寝転びながらであったり、「〜しながら」できてしまうようになったからです。

学生や高齢者は別ですが、朝から晩まで仕事をしている世代にとって、椅子に座ってパソコンに向かったり、ソファーに座ってTVに向かったりする時間を確保するのは、一苦労です。無理してまとまった時間を確保するより、通勤電車でスマホをいじったり、ベッドでタブレットをいじるほうがライフスタイルに合っています。

 

PS4の懸念は「高額なゲーム専用機である」という存在そのもの

ソフトがどうとか、性能がどうとか、ましてやグラフィックがどうのという話ではありません。ライフスタイルが変わり、そもそも消費者に「TVに繋いでプレイする高額ゲーム専用機を買おう」と思わせること自体が難しくなっています。

PS4は、PS Vitaを利用して、ベッドや外出先でも遊べるように設計されているそうですが、機器代金の負担が大きすぎるのがネックです。最低でも6万円(PS4約4万円、PS Vita約2万円)、それに通勤中に遊ぼうと思えば、(スマホのWi-Fi接続が外出先でほとんど使い物にならない現状を考えると)PS Vitaの3G定額4980円/月が必要です。

Amazonが電子書籍端末を格安で売っているのはなぜか。どんなに優れたコンテンツがあっても、ハードが消費者の手元になければソフトを買ってもらえないからです。もしSONYがAmazonと同じ戦略をとり、ハードを安く売って、例えばソフトメーカーから手数料を取る収益モデルにするのであれば、復権の可能性はあります。が、現状伝えられている価格では、常識的に考えて一般消費者に普及させるのは極めて難しいと言わざるをえません。

 

PS4はゲーム業界の旧来的マーケティングの試金石に

ただし、PS4が採算がとれないほど売れないかどうかはわかりません。もし想定どおりPS4が一般消費者に普及しないとしても、プレイ動画の共有であったり、ストリーミング配信への対応は、使い勝手によってはコアなファンに支持される可能性があるように感じます。

その場合、問題は、高額ゲーム機器を買ってくれるほどのコアなファンがどれくらい残っているのかでしょう。HONDAの『TYPE – R』 程度しか残っていなければ採算がとれないし、プロ野球ファン規模で残っているのであればギリギリ採算ラインに乗るかもしれません。

どちらにせよ、PS4が試金石になるのは間違いありません。PS4のマーケティングは愚直にも今までどおりの延長であり、優れた性能とシステムを用意すれば高い機器も買ってくれるはず、という戦略です。「〜しながら」に大きく変化しているライフスタイルに一石を投じられるのか、それともHONDAの『TYPE – R』のように淘汰されてしまうのか。

PS4単体で採算ラインに乗ったとしても、「そういえば昔はよくゲームで遊んだよね」という層を引き戻せないのであれば(あるいは10代20代に、スマホをPS Vitaに持ち替えさせるほどの魅力と利便性を示せないのであれば)、結局はジリ貧です。

個人的には、妻や知人など、周囲にいるフツーの人たちに「買ってもいいかも?」と思わせられなかった時点で、マーケティングに失敗している予感がぷんぷんしています。PS4が優れたプロダクトだと仮定しても、現状のままでは、コアなファン専用のマニアックな製品に終わるのではないでしょうか。

2013年末と言われる発売が待たれますね。

 

どうやって人々の元へ届けるのか? という問いの重要性

さて、今回は主にPS4を中心に、マーケティングについての話を展開してきました。これが正解だと断言はできませんが、どうしてPS4が失敗だと考えるのか、理由は理解していただけたと思います。

もちろんこれはゲーム業界だけに言えることではありません。ビジネス全般はもちろん、世の中のほとんど全てが、同様の要素に支配されています。

例えば、ソーシャルイノベーション界隈では「いい取り組みをしていても、なかなか広がっていかない」という課題があります。活動やプロダクトそのものに明確な価値があるのは大前提ですが、それだけでは世の中は動かないというのは、学生からNPO職員まで、痛いほど実感しているところであるはずです。

これは、PS4がどんなに価値ある製品だとしても売れないかもしれないのと同じで、マーケティングの問題です。目の前の活動に没頭するだけでなく、「どうやって人々の元へ届けるのか?」という方法論を真剣に考えてはじめて、多くの人々を動かすことができます。

スタートは、人々がどういう生活をしていて、どういう基準で行動しているのかに目を向けること。きっと、みなさんの活動の影響力を高めるためのヒントが見つかるはずです。

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