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317月

Disney / Pixar『インサイド・ヘッド』レビュー|物語の柔軟性を犠牲に生み出された、誰も見た経験がない新世界

試写で字幕版、プライベートで子どもたちと日本語吹き替え版を見ました。

個人的な満足度は、60〜70%。

鑑賞し終わって真っ先に思ったのは、『トイ・ストーリー』3作の偉大さで、『インサイド・ヘッド』には違った良さがあるけれど、つまるところ「私は良い鑑賞者ではなかった」、という結論になるんでしょうか。

 

推測可能なストーリーを、どう評価するか

作品情報にあるとおり、頭の中の司令部から、ヨロコビとカナシミが放り出されてしまうわけですが、もうこの時点で、司令部へ帰ることがメインストーリーだと、明確になります。

脳内を忠実に再現した世界を舞台にしている以上、それ以外の選択肢は、あり得ません。

しかも、帰路もはっきり提示されていて、これから起こるだろう障害も、早い段階で明確になります。

加えて言えば、障害が何回起きるかもわかるし、いよいよ司令部に到達できるタイミングがいつなのかも、簡単に推測できてしまいます。

すると、どんなにキャラクターが魅力的で、道中に驚きが満ち溢れていても、まどろっこしさが拭えない。

吹き替え版を一緒に鑑賞した妻は「カナシミにイライラした」と言っていました。

ストーリーが一本道で予測可能だからこそ、ウジウジした性格や、足を引っ張る行動が、“引き延ばし” のように感じてしまう。

本来は、カナシミのキャラクターを印象づけたり、カナシミの存在理由を深掘りする、重要な描写・エピソードたちです(その役割をきちんとこなすためには、違和感やストレスがあってはならない)。

 

ストーリーの柔軟性を犠牲に生まれた、まだ誰も見た経験がない新世界

『トイ・ストーリー』3作は、無類のストーリーを持つ、傑作映画です。

物語は、違和感なくよく作り込まれており、鑑賞者の多くが、キャラクターの個性を理解しながら、展開にのめり込んでいきます。

一度ならず、二度三度、いや何十回見返しても、「よくできている」と感心するしかありません。

物語には「型」があります。おもしろい形式は、決まっていて、長い文化史の中で探し尽くされています。

そんな歴史の中で見ても、お手本と言っていい傑作映画が、『トイ・ストーリー』3作です。

もし大衆小説を書きたい人がいたら、『トイ・ストーリー』の骨組みを丸々コピーして(もちろんまったく違うキャラクターで)書いてみてください。

描写力が備わっていて、キャラクター造形さえ間違えなければ、確実におもしろい小説になります。

それと比較してしまうと『インサイド・ヘッド』は……いや、物語の出来が『トイ・ストーリー』レベルでなくてもおもしろいく感じるピクサー映画はいくつもあるので、比較するのはお門違いなんでしょう。

ピクサーは『インサイド・ヘッド』で、正真正銘、今までに誰も見た経験がない世界を描写してみせました。

得るものがあれば、失うものもある。ストーリーが硬直的になってしまう制約と引き替えに、ピクサーらしいクリエイター魂を貫いたのかもしれません。

 

さすがピクサーと言える、人格形成や感情の動きの正確な描写

劇中で描こうとしていることそのものは、新時代に突入したディズニーの新テーマ「ありのままで」であり、とても共感できるものです。

『アナと雪の女王』、『ベイマックス』、実写『シンデレラ』と続くラインを、ピクサー・アニメーション・スタジオも(意図的ではないかもしれませんが)踏襲しました。

キャッチフレーズは「なぜ、“カナシミ”は必要なの…?」ですが、感情を排除または抑圧しようとすれば、どんな影響になるか、心理学や精神医学の専門書を読まずとも、誰にでも想像できます。

たとえば、お父さん、お母さん。子どもに「男なんだから泣くな」と、つい言っていませんか。

科学的に考えれば、こんな理不尽な理屈もないですよね。性別によって、感情抑圧への耐性が決まるわけではありません。

悲しい気持ちになったとき、人は何を求め、本当はどうしてほしいと欲しているのか。

『インサイド・ヘッド』は、そんな当たり前の事実を、これ以上ないくらいの美しい映像と、正確な描写で教えてくれる映画です。

85月

実写『シンデレラ』は子連れで観に行ったほうがいい、と断言する3つの理由

ディズニーメディアのディレクターとして、いちディズニーファンとして、そして何より6歳と3歳の子供の親として、断言します。

実写『シンデレラ』は、子連れで観に行くべきです。

 

映画として文句なしの傑作

はじめに、実写『シンデレラ』の映画としての評価をしておくと、これは文句なしの傑作です。

ディズニーのおとぎ話が好きだろうが、嫌いだろうが、そんなことはお構いなしに、「映画として優れた作品である」という、敢然たる事実があります。

リリー・ジェームズ(シンデレラ役の女優)の存在だけでも、映画館で105分を費やす価値があると感じる人がほとんどだと思います。

来日記者会見で、リリー・ジェームズ本人を見ました。彼女は「女優として」という前に、ひとりの人間として、知的で、ユーモアがあり、自分自身であるということを怖がらない(たとえば、照れも戸惑いも、ありのままに表現できる)、魅力的な女性でした。

監督ケネス・ブラナーは、シェイクスピア劇出身の俳優でもあります。王宮のシーンを描かせたら、ピカイチなんです。

私は(ディズニーに対し)「古典的(Classical)なシンデレラをつくりたい」と答えました。
伝統的であり、おとぎ話ではあるんだけれども視覚的に豪華な作品でもあって、キャラクターと演技がとても現代的な作品をつくりたい、と答えたんですね。

【前編】『シンデレラ』監督インタビュー「なぜ今“シンデレラ”を実写化するのか?」

インタビューで、監督本人も言っていましたが、たとえば最大の見せ場の一つである舞踏会のシーンなど、クラシカルで、素晴らしく豪華です。

映画館の大きなスクリーンで見る価値のある、掛け値なしの映像美と言えます。

 

実写『シンデレラ』を子連れで観に行くべき3つの理由

私には6歳と3歳の子どもがいます。きっと、同世代のお父さん、お母さんが気になるのが、

ディズニーのおとぎ話『シンデレラ』とはいえ、アニメーションではなく実写映画でしょう? 幼児や、小学校低学年の子どもと一緒に観に行けるかしら?

ということだと思うんです。

私は、心配しなくていい、という意見です。いや、むしろ、子どもを連れて観に行くべきだと思います。理由は3つです。

 

1. 同時上映の「アナ雪」新作短編がおもしろい

はなっから『シンデレラ』と無関係ですみませんが、同時上映が、子どもたちが大好き『アナ雪』の新作短編『アナと雪の女王 エルサのサプライズ』です。

本編の前に上映する、おまけのような短編なので、本当に短いです。

が、流石は乗りに乗っているウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ。

映画館を出てから、子どもたちに、

「映画はどうだった?」

と聞くと、1時間45分の『シンデレラ』本編を見終わった直後にもかかわらず、

「おもしろかった! アナの誕生日のお話が!!」と答が返ってくるくらいには、むちゃくちゃおもしろいです。

人気キャラが総登場するうえに、各キャラクターの個性が生きている!

『Frozen 2』(アナ雪2)の製作が決まっていますが、エルサが作った氷の城が残っていたり、とある主要キャラの現状が垣間見られたり、次回作に向けていろいろ想像をたくましくすることもできます。

 

2. 子どもたちが大人になったときに、周囲に自慢できる

たとえば、1950年公開のアニメーション『シンデレラ』を、リアルタイムに映画館で観ていたとしたら、ちょっとした自慢話にできます。

古典『シンデレラ』は、ディズニー・ラブストーリーの原点であり、ディズニーのDNAとも言える作品だからです。

今回の実写『シンデレラ』が傑作である、という事実は、冒頭でさんざん語りました。

単に優れた映画であるだけでなく、ディズニーの新しい歴史を作る作品になった、と私は思っています。

【実写映画『シンデレラ』レビュー】パーフェクト。今後「ディズニーのシンデレラ」と言えばこの作品を指すようになる(1/3) – D*MANIA
ケネス・ブラナー監督インタビューで、とても興味深いコメントがありました。

ディズニーは、新しく、ポジティブな「始まり」の機運を感じていて、アニメーションを実写化していく創造的なプランの先駆けとして、『シンデレラ』を考えていたようです。

【前編】『シンデレラ』監督インタビュー「なぜ今“シンデレラ”を実写化するのか?」

ジョン・ラセターをトップに迎え、『塔の上のラプンツェル』で復活を果たしたウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは、『シュガー・ラッシュ』『アナと雪の女王』『ベイマックス』と、立て続けに、世界を感動の渦に巻き込む作品を世に放ちました。

アニメーション部門は、数十年後に「黄金期」と呼ばれるに違いない、奇跡的な成果を出し続けています。

一方の実写『シンデレラ』は、ケネス・ブラナーの言葉を信じれば、ディズニー実写部門のマイルストーンとなるべく製作された作品なんです。

 

3. 子どもたちに見せたい、と思える作品に仕上がっている

そして実際、実写『シンデレラ』は、ディズニー実写部門が “新時代” を宣言するに値する作品です。

実は私は、古典『シンデレラ』をはじめ、ディズニーの古いおとぎ話を、子どもたちに積極的に見せたいと思った経験がありません。

ところが、試写で実写『シンデレラ』を観て、これは絶対に子どもたちに見せなければ!と直感したんです。

なぜなら、実写『シンデレラ』は、「堪え忍んでいたら、幸運や魔法が助けてくれた」という古くさい物語ではなかったから。

最愛の人々に、心から愛されて育ったシンデレラは、不運や、理不尽にも負けず、世界を広げていける……というお話だった。

ありのままの自分自身を受け入れ、信頼すること(つまり、自己肯定感)こそ、本当の魔法。

これはもう、現代社会を豊かに生きるための、ほとんど唯一の真理と言ってもいいわけです。

 

現代の子どもたちと、その親のために作られた、ディズニーのおとぎ話

古典『シンデレラ』が公開されたのは、第二次世界大戦の爪痕が残る1950年。シンデレラの人物像には、時代背景が色濃く反映されていたといいます。

私たち現代の親の感覚からすると、アニメーションの『シンデレラ』が古くさく感じられて当然なんです。

実写『シンデレラ』は、現代の子どもたちと、その親のために作られた、ディズニーのおとぎ話。

きっと「子どもと観に行って良かった」と思えるはずです。

1010月

ディズニーのマーケティングの神髄「これでもか、これでもか」を理解するための8つのキーワード

東京ディズニーランド開業の2年前からマーケティング全般に携わり、ゼロから1000万人の入園者を集めた渡邊喜一郎さんの著書『ディズニー こころをつかむ9つの秘密 ー97%のリピーター率をうみ出すマーケティング』を紹介します。

2013年は上半期(4月〜9月)の入園者数が200万人以上も増えて過去最高(約1535万人)を記録するなど、向かうところ敵なしの東京ディズニーリゾート。マーケティングの神髄は、期待を超えるサプライズを「これでもか、これでもか」と徹底して提供することだと言います。

内容としては東京ディズニーランド開業前後の実体験に基づいた話で、現状とは違う部分もありますが(例えばブランド管理について、現在はかなり時代に適応して変化しています。僕もプレス枠で東京ディズニーリゾートを取材するのですが、本書にあるような「マスコミの記事や写真の事前チェック」はしていないと思われます)、根本的なマーケティングの考え方はとてもためになる内容です。

ディズニー こころをつかむ9つの秘密

渡邊 喜一郎 ダイヤモンド社 2013-05-17
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ブランドに関わる目に見えるものすべてをコントロールする

冒頭に、本書の価値、誰もが知りたい回答がシンプルに記されています。

ディズニーのマーケティングとは何か。
まず、その最大の特徴を端的に挙げるなら、ブランドに関わる目に見えるものすべてをコントロールする、ということだと思います。そうすることによって、作り上げたブランドを確固たるものにし、浸透させていくのです。
そしてブランドは、人々が欲しているものを見定め、“絶対的な価値”として送り出すということ。
大事なことは、自分たちの信念を揺るがせないことです。

「言うは易し、行うは難し」と言ったところでしょうか。

実際のところ初期は、米ディズニーが持っていたマーケティングのノウハウを忠実に実践していたのだとわかる記述が散見されます。

というより、アメリカ側が日本人(オリエンタルランド側)を信用しておらず、ほとんど命令されていたようなものだったようです。

というのも、アメリカのノウハウを学ぶことが基本でしたから、いくら日本側が「絶対大丈夫だから、こんなものを売らせてくれないか」と言っても信用してもらえなかったのです。

もちろん、実績が出始めれば次第に信頼関係ができあがっていったわけですが、寄り道することなく一つの考え方を貫徹できたのは、結果的に良かったのかもしれませんね。

ゼロから米ディズニー流のマーケティングに取り組む様子が事細かに紹介されていて、本書は非常に参考になります。

 

期待を超えるサプライズを提供する

さらに、これはマーケティングに限らず、ですが、ディズニーが人を惹きつける重要なポイントがあります。それは人々が持っている予想を超えたものを提供する、ということです。
しかも、予想外のところで、あるいは期待のないところで。
いきなり度肝を抜いたり、最後の最後え「えっ!」と言わせたりする。
これを私は、「これでもか、これでもか」と称しています。実はあらゆるところで、ディズニーは「これでもか、これでもか」を実践しているのです。言葉をかえれば、その行いのすべてが、ディズニー的マーケティングであるとも言えます。

「これでもか、これでもか」は本当に言い得て妙だと思います。マーケティングやブランド浸透に近道など存在しない事実は、今さら僕なんかが指摘するまでもありません。地道に積み重ねるのが最低条件です。

その中でコツがあるとすれば、地道な積み重ねだけで満足するのではなく、常に客の一歩先を行って、期待を超えたサプライズを提供することだと言えるでしょう。

 

リピーター獲得のための8つのキーワード

第4章「なぜ、これほどリピーターが多いのか」に、リピーター獲得のための8つのキーワードが記されています。「これでもか、これでもか」を理解するために最適だと思いますので、紹介します。

 

1. いつも何かが変わっている

実際、東京ディズニーランドは、年がら年中、何かが変わっています。
エントランスを抜けるとミッキーマウスの顔をかたどった花壇がありますが、これも年中入れ替えられている。
(中略)
また、これだけ大規模にアトラクションを展開しながら、今もなおアトラクションが増え続けています。
(中略)
ウォルト・ディズニーが有名な言葉を残しています。「ディズニーランド・ウィル・ネバー・ビー・コンプリーテッド」。つまり、「ディズニーランドは、永遠に未完成」なのです。

 

2. 心をくすぐる

ディズニーランドは、「すべてのお客さまがVIP」という言い方をしています。これは、言葉を変えれば、すべてのお客さまが心をくすぐられる場所だ、ということです。

 

3. アニバーサリーグッズ

こうしたアニバーサリーグッズは、基本的に無料配布です。どうしてコストをかけて、こんなことをするのか。言ってみれば、大盤振る舞いするのか。
それは、グッズは単なるモノではないことを知っているからです。
バッジやキーホルダー、小さなグッズひとつでも、手にしたり身につけることによってそれはひとつの「ディズニー体験」になるのです。グッズを身につけているだけで、ディズニーが身近な存在になる。親近感が高まるのです。
そしてもうひとつ、人はもらったことは忘れない、ということです。心がくすぐられるからです。

 

4. 優越感

もちろん、おトクになることが第1の特典ですが、「マジックキングダムクラブ」という会員証を持つことに「心くすぐられる感」があったようです。さらに、きっとこれは喜ばれるだろう、ということで「マジックキングダムクラブ」専用の特別なお土産売り場も作りましたが、これも大好評でした。

 

5. 都市伝説

その中でも有名なのが、こんなところにミッキーマウスの絵や形が、という「隠れミッキー」。ミッキーが壁のところにちょっと描いてあったり、塀の様子がよく見るとミッキーだったり。
本当にあるのか、といえば、本当にあります。開業時からたくさんあります。

 

6. 地方重視

地方で何かイベントがあるたびに、仕掛けを組んでいました。お祭り、公共機関の開設、スポンサー企業の関連施設のオープン——そういうニュースを聞きつけたら、なるべくミッキーマウスを送り込んでいました。
(中略)
そうすることで、生まれたときからディズニーキャラクターがそこにある、という感覚の人たちが日本にどんどん増えていったのです。

 

7. リサーチ

このヒアリングをまとめられ、レポート化します。そして「10人に何人のお客さまがどんな不満を持ったか」など、データ化されてフィードバックされました。
ここから、リピーターをさらに増やしていくためには、何をすればいいのか、ということを常に洗い出していたのです。

 

8. イベント

言うまでもありませんが、季節のイベントは、その季節に来なければ見ることはできません。リピーターにとってとても大きな訴求力を持つのが、イベントでした。

なお蛇足ですが、ハロウィーンを日本で流行らせたのも、クリスマスに大々的にイルミネーション装飾をするようになったのも、東京ディズニーランドが火付け役だと語っています。

今、40歳以上の方々ならよくわかると思うのですが、東京ディズニーランドができるまで、そもそもクリスマスというのは今のような派手なものでは決してなかったのです。
(中略)
ところが、東京ディズニーランドのクリスマスが街のクリスマスを変えていきました。商業地はどんどん明るく、派手になっていったのです。

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154月

東京ディズニーリゾートとソーシャルゲームの違い

今日4月15日、東京ディズニーリゾートが30周年を迎えました。そんな中、運営するオリエンタルランドの上西京一郎社長へのインタビューをベースにしたこちらの記事が、とても興味深いものでした。

朝日新聞デジタル:節約してでも幸福追求、明確に オリエンタルランド社長 – 社会
「削るものは削る。でも、使いたいと思うものには、削った部分を投入してでも自分の幸せ感、満足感を達成する。そんな消費マインドが明確になってきているのではないか」

朝日新聞デジタル:「魔法の王国」デフレ知らず TDR開業30周年
ツアー代とは別に、ミッキーマウス柄の子供服や菓子などのおみやげに3万円近く。「ディズニーでは金銭感覚がなくなりますね」TDRは、スーパーのチラシを見比べるような、ふだんの暮らしを忘れさせる。

 

 

ディズニーはソーシャルゲームなのか

個人的には、朝日新聞のこの記事の作り方は「かなり際どいな……」と思っていて、例えば、

■生活切り詰め、夢に惜しみなく
13日夕、福岡県久留米市の造園業、佐藤康博さん(25)が羽田空港から帰路についた。妻の明菜さん(24)、長女の未海(みう)ちゃん(1)との東京旅行。3泊4日で最大の楽しみはディズニーだった。
ツアー代とは別に、ミッキーマウス柄の子供服や菓子などのおみやげに3万円近く。「ディズニーでは金銭感覚がなくなりますね」
TDRは、スーパーのチラシを見比べるような、ふだんの暮らしを忘れさせる。
神奈川県横須賀市の森武美さん(49)は11日、次女の綾乃さん(23)と2人でグッズを5万円分買った。
自宅では明かりをこまめに消す。夫や子には弁当をもたせる。500円玉は「ディズニーで使う用」に開いた口座に。「自宅はもうディズニー商品でいっぱいだけど、新商品なら買わずにはいられない」
バブル後の90年代、来園者は年1700万人前後で足踏みしたが、「シー」で2千万人台になり、この3月までの1年は2750万人。過去最多だ。使うお金も、過去最高だった前年を超す1万420円(入園券込み)との予想を公表している。ハウステンボス(長崎)の約8千円、サンリオピューロランド(東京)の約4500円を引き離す。
オリエンタルランドの上西京一郎社長(55)は「削ったお金を幸せが味わえるものに使う。そんな消費者の志向は明確だ」と話す。ただし、90%超のリピーターの財布のひもが緩むのは経営努力があってこそ。

「魔法の王国」デフレ知らず TDR開業30周年

この部分なんか、まるで低所得層がソーシャルゲームにのめり込む様子を紹介しているような印象を受けます。

もちろん、似通っている部分もあります。趣味の圧倒的大多数がそうであるように、お金を払っている人たちが何を得ているのか? は、他人には想像しがたいのが普通です。ディズニーに魅力を感じない人にとっては、どちらも「なんでそんな無意味なことにお金をつぎ込むのか」というのが、率直な感想であるはずです。

 

超一流コンテンツがひとり勝ちの要因

とは言え、逆に言えば、趣味とは基本的に他人には理解されないものです。当人が何かしらポジティブな影響を受けているのであれば、言うまでもなく、趣味そのものを否定するのはナンセンスでしょう。

東京ディズニーリゾートとソーシャルゲームの明確な違いは、コンテンツが一流かどうかです。ソーシャルゲームの圧倒的大多数は、クラシック・ゲームに比較して、質が低いと感じさせます。今、30代40代の社会人にとっては、過去の作り込まれたゲームたちの輝かしい記憶があるので、「なんであんな三流ゲームにお金と時間を無駄にするんだ」という思いが拭えません。

僕としても、その感覚はとてもよくわかります。ゲームそのものに否定的な意見もあるとは思いますが、特にソーシャルゲームが叩かれる大きな要因となるのは、コンテンツの質の低さだと考えています。

おそらく朝日新聞としては、悪意があるわけではないのだと思います。単に経営手法の面からディズニー好調の要因を紐解き、実際にその手法で購買行動を起こしている顧客がいると示しているわけです。

ただし一方で、経営面だけを切り取ってしまうと、重要な部分が抜け落ちてしまいます。コンテンツが超一流である、という事実です。ホスピタリティ、景観、ショーやパレードのエンターテイメント性やダンサーの質など、テーマパークとしては他の追随を許さないハイレベルを維持し続けています。

 

震災直後に実感した本物のエンターテイメント

僕は今でこそ、家族で年間パスポートを所持していて、大手メディアにディズニー記事を寄稿していますが、最初からディズニーを認めていたわけではありません。むしろ人混みが嫌なので、避けていたくらいです。妻と出会って徐々に行く回数が増え、オリエンタルランドの経営手法に興味を持ち、次第に東京ディズニーリゾートに注目するようになりました。

本当の意味でのファンになったのは、実は震災がきっかけでした。震災直後の日本社会の雰囲気を覚えているでしょうか。津波で壊滅する沿岸部の様子が、テレビで連日放映されていました。昨日までの日常がもろくも崩れ去った事実に、多くの人が、衝撃を受けていました。東北を支援しようと、多額の支援金が集まり、ボランティアが活動しました。

特に娯楽は自粛ムードで、桜が咲いても花見宴会さえ堂々とはやりにくい空気がありました。東京ディズニーリゾートは、施設自体への被害は軽微だったものの、周辺の生活・交通インフラの復旧を考慮し、約1ヶ月間閉園を迫られました。

当時の僕は、子供が2歳になったばかりで、妻が妊娠している状況でした。胎児は母体の影響を受けますし、2歳の娘もかなりナーバスになっていました。「自分にできることは、まず家族を守ることだ」と思い、積極的に娯楽を楽しもうと考えていました。

ディズニーランドが再開したと聞いて、さっそく家族で出かけました。歩いていて、滅多に人とすれ違わないくらいに空いていましたね。見慣れていたはずのショーやパレードを前に、知らず知らず涙腺が緩んだのを覚えています。ちょっとこれは衝撃的な体験でした。冷静な頭で「いや、これを見たら、誰も自粛なんて言えない」と考えていました。

人によって、ポイントは違うかもしれません。個人的には、ダンス&ミュージックが創り出すエンターテイメント空間と、ダンサーたちの笑顔が、クリティカルに響きました。ピリピリした社会情勢だったからこそ、「自分が求めているもの、欲しがっているものが、確かにここにあるんだ」と気がつけたのだと思います。

 

 

社会情勢が厳しくなればなるほど、本物だけが生き残る

オリエンタルランドには“いつわりなく夢や希望を与えられる、超一流コンテンツ”を抱えている自負がある、という前提の元に読むと、上西京一郎社長の言葉も、またひと味違って感じられるはずです。

――世の中は節約志向です。
「全体として、消費者がしっかり財布のひもを締めているのは間違いない。将来への不安もあるだろう。『アベノミクス』といっても、まだ、財布が重く厚くなっているわけではない。でも人間には、何かを買いたい気持ちがどこかにあるものだ。削るものは削る。でも、使いたいと思うものには、削った部分を投入してでも自分の幸せ感、満足感を達成する。そんな消費マインドが明確になってきているのではないか」

――いつごろからですか。
「そんな流れは、10年くらい前からあったように感じる。私どもの売り上げの一人当たり単価に表れてきたのはここ4、5年ぐらいではないか」

――節約志向は08年秋のリーマン・ショック後に強まったと言われます。そのころから、メリハリが出てきたということですか。
「そうだと思う。バブル経済が崩壊した後は、消費はしばらく(落ちないで)余韻を引きずっていた。リーマンの時は完全にがくっと落ちた。そこが大きな転機になったかもしれない」

――使う時は使うといっても、使う先に選ばれねばなりません。
「政府がいま、デフレをインフレに変える目標を立てているが、消費者のマインドは、すぐには変わらないだろう。我々は、選ばれ、来園してもらえる努力を続ける」
節約してでも幸福追求、明確に オリエンタルランド社長

この、選んでもらえるという自信。

震災直後の個人的体験を蒸し返すまでもなく、社会情勢が厳しくなればなるほど、本物だけが生き残る傾向は明確になります。

オリエンタルランドは、これだけ的確に現状を把握しているんですね。素晴らしい戦略眼。どんな世の中になっても、当面は東京ディズニーリゾートのひとり勝ちが続きそうです。

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