実務家・馬淵澄夫がいなかったら福島第一原発はどうなっていたのか


なぜ、こんなにつまらないタイトルをつけてしまったのでしょうか。『原発と政治のリアリズム』だなんて、まるでイデオロギー本にしか見えません。

実際には、福島第一原発事故当時の、大混乱の様子を詳細に伝え、実務家ならではの鋭い分析を加えた、おもしろすぎるドキュメンタリー。ぐいぐい引き込まれて、夢中で読んでしまいました。

当時の政府や東電の対応は、事故調による総括が終わった今も、多くの謎が残ります。現場で対応に当たり、福島原発4号機建屋にも足を踏み入れた馬淵代議士の視点は、とても貴重なものです。

馬淵代議士が、その実直さを遺憾なく発揮して、釣りタイトルを嫌ったのかもしれませんが、これではあまりにももったいない。

2013-05-15_1621
原発と政治のリアリズム (新潮新書)

 

買収した企業を一から立て直す手腕を発揮した実務家

馬淵澄夫代議士は、奈良1区選出の衆議院議員で、当選4回。大逆風だった2012年総選挙でも生き残った、数少ない民主党議員です。2011年と2012年の民主党代表選挙に立候補しているので、名前だけは知っている、という人も多いでしょう。

東日本大震災後の2011年3月26日には、首相補佐官に任命され、福島第一原発事故対応に当たっています。

馬淵代議士は、ビジネス界出身です。建設・不動産会社で「雑巾がけ」から勤め上げ、買収した印刷機器関連会社の経営と再建を任されます。本のタイトルになっていますが、ここでの経験から、収益を上げ社員の雇用を守る徹底した“リアリズム”と、マネジメント力を身につけたようです。

 

実務家から見た大混乱の原因は統合本部の存在そのもの

『原発と政治のリアリズム』の前半では、細野豪志補佐官(当時)から前触れなく携帯に電話がかかってきた3月25日から語り起こし、当時の現場の大混乱の状況と、その原因の分析に紙が費やされています。

混乱の最大の原因は、端的に言うと、法的権限のない統合本部の存在だったと分析しています。政府と東京電力が一体となって対応に当たるために設置されたはずの統合本部ですが、政府側には指示や命令といった権限がありません。

例えば政府側が、国民第一の姿勢や、諸外国への配慮から、「こう対処してほしい」と要請しても、東電側は「持ち帰って検討します」と応じます。決めるのは東電というわけです。

すれ違いが生じ、政府と東電は、別々にプロジェクトを進め始めていた……という信じられない状況のなか、馬淵代議士が着任します。

 

馬淵代議士がいなかったら一体どうなっていたのか

会社で働いた経験のある人なら、当時の絶望的な状況が、嫌というほど想像できると思います。『原発と政治のリアリズム』を読んでいて感じるのは、「いま福島第一原発がなんとか持ち直しているのは、実は奇跡だったのか……」という、愕然とした感情です。

馬淵代議士は、企業を再建してみせたリアリズムとマネジメント力を発揮して、最悪の現場を、それでも一つ一つ、根気強く解きほぐしにかかります。

本を読んだだけでは、馬淵代議士が全体の中でどの程度の影響力だったのかまでは、計れません。それでも、もし馬淵代議士が事故対応に指名されていなかったらと思うと、マネジメントに優れた政治家の絶対数の少なさを考え合わせても、ぞっとせずにはいられません。本当に次から次へと、目を疑うような状況が浮き彫りにされていきます。

 

原子力ムラの独特の思考回路と、東電の巨大企業ならではの組織論理

『原発と政治のリアリズム』を読んでいて、常に印象的なのは、馬淵代議士の極めて真っ当な感覚です。東電や原子力ムラについても、

彼らの論理に戸惑い、怒りを覚えたことがあったし、今回の事故発生には彼らが大きく関係していることは間違いない。

『原発と政治のリアリズム』p.5

とはしながらも、イデオロギーで批判はしていません。

例えば、東電は「メルトダウンはしていない」と主張していました。これは、意図的に欺こうとしていたというより、“原子力の敗北を認めたくない”という業界の危機感があったり、なぜか“最悪の事態を想定=最悪の事態の発生を宣言”と捉えていたりするせいで、データから明るい材料を積み上げて楽観論を形成しているからだと指摘しています。

 

きちんと反省している数少ないだろう民主党議員

馬淵代議士は、最終的に、2011年6月27日に任を解かれます。菅総理(当時)から提示された経産副大臣のポストを固辞しているのですが、当時の様子も、

菅総理に「申し訳ありませんがお受けできません」と告げると、これまでにない調子で叱責された。その発言の詳細は控えるが、たいそう激昂した様子だった。

最終的には、「ならば補佐官を降りてもらう」との言葉が返ってきた。そもそも補佐官就任の要請は官邸からだった。それを思い出しては矛盾と理不尽さを感じながらも、なんとか落ち着いて「それは、総理がお決めになることです」と言った。

『原発と政治のリアリズム』p.176

と、詳細に記し、経産副大臣を断った理由にも踏み込んでいます。

また、「誤った政治主導」というセクションを設け、民主党政権の反省にまで誠実に言及しています。先日の大反省会でも多くの失望のコメントを目にした民主党ですが、馬淵代議士が代表になっていれば、政権再奪還とまでは言わずとも、少なくともまともな政党には改革できただろうに……と素直に思います。

「なるほど、こういう民主党議員もいるのか」という視点からも、読んで損のない一冊です。

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